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札幌地方裁判所 昭和53年(行ク)2号 決定 1978年9月14日

申立人 加藤勝 外九名

相手方 北海道知事

参加人 北海道電力株式会社

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

一  申立人らの申立の趣旨及び理由は、別紙申立書及び反論書、被申立人の意見は、別紙意見書の各記載のとおりである。

二  本件疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。

(一)  参加人は、昭和四六年ごろから伊達火力発電所の燃料油の輸送方法について、海上輸送に伴う漁業への支障の懸念等よりして、室蘭市陣屋町から伊達市長和町所在の同発電所までの間にパイプラインを敷設して送油することを計画し、昭和五〇年九月八日被申立人に対し、消防法一一条一項の規定により伊達発電所移送取扱所(以下、本件移送取扱所という。)の設置の許可申請をしたこと

(二)  右許可申請を受理した被申立人は、昭和五〇年一〇月右許可の可否を判断するにあたつて適正を期すべく、金属材料、溶接、耐震、地質等についてそれぞれの学識経験者である室蘭工業大学名誉教授金森祥一ら一一名を技術専門員に委嘱したところ、右技術専門員らは、昭和五一年三月被申立人に対し、右許可申請にかかる本件移送取扱所の設置計画の内容が、消防法一〇条四項、危険物の規制に関する政令一八条の二(石油パイプライン事業法一五条三項二号)、危険物の規制に関する規則二八条の二ないし五三、危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示五条ないし六八条(以下、技術上の基準という。)をいずれも十分に満足しており、したがつて、安全性の確保について現段階で考えられる技術的配慮が十分なされているものと判断するとの意見を添えた「伊達火力発電所の移送取扱所設置許可申請に関する技術検討報告書」(疎甲一二号証、乙三号証)(以下、本件報告書という。)を提出したこと

(三)  被申立人は、同年八月三一日参加人に対し、本件移送取扱所の設置の許可処分(以下、本件許可処分という。)をしたこと

(四)  本件移送取扱所の設置計画の内容は、所定の手続を経て一部変更され、変更後における計画の概要は、次のとおりであること

1  名称 伊達発電所移送取扱所

2  送油油種 重油及び原油

3  設置場所

起点 室蘭市陣屋町一七三番地(発ターミナル)

終点 伊達市長和町一六九の一番地伊達発電所(着ターミナル)

4  経油地(パイプラインルート)

室蘭市陣屋町―同崎守―伊達市北黄金―同稀府―同清住―同長和町

5  設置経路内訳

道路下           一七、九四八メートル

線路敷下              七三メートル

河川下              六四九メートル

地上(発・着ターミナル内)  一、一三七メートル

(河川横断)         四三三メートル

専用隧道内(崎守)        六六三メートル

(館山)        六二六メートル

民有地            二、〇九四メートル

その他            二、〇三一メートル

合計   二五、六五四メートル

6  送油管

延長            二五、六五四メートル

本管外径         三一八・五ミリメートル

条数                  一条

7  ポンプの種類、型式

横型多段渦巻式

8  全揚程(圧送圧力)

一平方センチメートル当たり二七・五キログラム

9  吐出量(送油能力)

一時間当たり二八〇キロリツトル(一五度C)

10  基数   二台(内一台予備)

11  送油時間 一日当たり一四時間

(五)  右によれば、本件移送取扱所中パイプラインルートは申立人らの住居等に近い稀府地区、弄月地区、清住地区、松ケ枝地区、竹原地区、館山地区等を経由しているものであるところ、参加人は、右設置計画に従い、昭和五二年六月本件パイプライン工事に着工したものであるが、本件許可処分より約一年九カ月を経過し右着工よりは約一年を経た本件申立時現在、右各地区においてもパイプ(送油管)敷設工事が終了又は進行中であること

三  被申立人は、本件許可処分の取消を求める申立人らの本件本案の訴については申立人らに原告適格がないから、申立人らの本件執行停止の申立は申立人適格及び申立の利益を欠き不適法であると主張するが、本件ではこの点についての判断はしばらくおき、まず申立人ら主張の本件許可処分により生ずる回復困難な損害及びこれを避けるための緊急の必要性の有無の点から判断することとする。

申立人らは回復困難な損害として、1本件移送取扱所のパイプが破損したときの被害、2パイプラインが存在することによる被害、3発電所の操業による被害を主張するので、これらの点を順次検討する。

四  申立人らは、まず本件移送取扱所のパイプが破損すれば、油の流出による火災の発生、用水、土壌、海洋汚染により回復困難な損害を被ると主張し、その原因として、1地震の発生2技術基準の限界又は不備3軟弱地盤と地下水の影響等を挙げるので、以下これらの点について判断する。

1  地震の発生について

(一)  本件疎明資料によれば、

(1) 本件移送取扱所が設置される伊達地方は、危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示一三条二項一号、四条の二〇、二項一号によれば地震統計的にB地区に区分され、同地方でこれまで最も被害の大きかつた地震の震度は明治四三年の明治新山生成時(有珠山地震)の震度四、昭和二七年の十勝沖地震における震度三、昭和四三年の十勝沖地震の震度四であること

(2) 本件報告書においては、本件移送取扱所の設置計画にあたり、参加人は、一段上のA地区を仮定した厳しい条件で強度計算を行い、これに対しても配管の最大応力度が許容限度の範囲にあることを確認し、また、伊達地方の既往の地震を考慮した地震工学的計算による震度の値も、安全側にあることを確認しており、技術上の基準を満たしているとされているほか、配管の設置方法についても技術上の基準を満たしているとされている。

(二)  以上によれば、本件移送取扱所の設置される伊達地方における既往の最大の地震の震度は四であるところ、設置計画にかかる本件移送取扱所の構造は震度五の地震を想定した技術上の基準を十分に満足するものであることを一応認めることができ、これに反する疎明はない。

2  技術上の基準の限界又は不備

申立人らは、技術上の基準には、軟弱地盤についての工法等が欠除するなど種々の不備があり、また、仮に本件移送取扱所が右技術上の基準どおりに設置されたとしても、パイプの破損による事故の発生がありうると主張するが、右技術上の基準の不備及び限界、並びに右不備又は限界により具体的損害の発生する急迫性があるかについては、特別の専門的学識経験にまたなければならないもの、すなわち鑑定によるほかはなく、これを認めるに足りる疎明はない。

3  軟弱地盤と地下水の影響

(一)  本件疎明資料によれば、本件移送取扱所のパイプの埋設工事は、一般埋設部においては、深さ約二ないし二・五メートル幅約一・二ないし一・四メートルに掘削し、パイプを設置後、パイプの周囲を砂(以下、置換砂という。)で締め固め、その上に大礫などを含まない掘削土で埋め戻し締め固めを行つて復旧するという手順で行うことが一応認められる。

(二)  申立人らは、本件パイプラインルート沿いの地域は、地下水が豊富で地下水位が地表近くまで達しているところが多く、そのような地域では、パイプの地下埋設が地下水流に変化をもたらし、地下水の枯かつによる地盤沈下等によりパイプが破損される可能性が極めて大きいとか、埋設工事によりパイプの周囲に敷き固めた置換砂が、周囲の土より透水係数が一〇〇倍も高いため地下水の流れに変化を生じ、置換砂部分は盲暗渠となり、地下水流の浸透作用、掃流作用により侵食され、局部的に空洞が発生し、右空洞の崩壊により周囲からの土圧のためパイプが折損する恐れがあると主張するところ、疎明によれば、本件パイプラインルート周辺地域には、地下水が豊富で地下水位が地表近くまで達している地域の存在することは一応認められるが、パイプの地下埋設により地下水流が変化するかどうか、地下水流の変化により地盤沈下等が生じそのためパイプの破損を招来する急迫の恐れがあるかどうか、また、パイプ周辺の置換砂が盲暗渠となり空洞を形成し、パイプの折損を招来する急迫の恐れがあるかどうかについては、高度に専門的な事柄であつて鑑定を俟たねば到底判断しえないものであり、疎明の範囲を越える。本件においては、右の点につき疎明があつたということはできない。

4  申立人らは、パイプ破損事故の発生原因として、他にも、パイプの外部腐食、ウオーターハンマー、溶接の不完全性、凍上凍結による地盤の移動、各種工事等による損傷、保安設備の不完全性等を主張するが、右主張のうち、技術上の基準として定められている点に関しては、前記のように、本件報告書によれば、右基準を十分満足していて安全性の確保について現段階で考えられる技術的配慮が十分なされていると報告されており、パイプ破損事故の急迫の発生を認むべき疎明はなく、その余の点に関しても同破損事故の急迫の発生を認めるに足りる疎明はない。

5  のみならず、本件疎明資料及び本件報告書並びに関係法令によれば

(一)  本件移送取扱所は、保安設備として、運転状態監視装置、安全制御装置、圧力安全装置、漏えい検知装置、緊急しや断弁(地震等の異常な事態が発生した場合、電動油圧駆動方式、手動油圧駆動方式、アキユムレーター駆動方式により直ちに本管内の送油をしや断する装置)、感震装置(地震が発生した場合、その加速度を検知し、緊急しや断弁閉、送油ポンプ停止等を連動させる装置)、強震計、電気防食装置、不等沈下測定装置及び標識(送油管の埋設位置を表示する位置標識、注意を喚起するための注意標識、他工事等による送油管の損傷を防止するための注意表示)等が設置され、右各保安設備はいずれも技術上の基準を満たしたものであること

(二)  参加人は昭和五一年一〇月被申立人との間に本件移送取扱所の設置に関し安全の確保と環境の保全を図るため「伊達発電所に係る燃料輸送パイプラインに関する協定」「同細目協定」(いわゆる防災協定、同細目協定)を締結したこと

(三)  参加人は、本件移送取扱所の設置工事が完成したときには、消防法一一条五項により、被申立人が行う完成検査を受け、右移送取扱所が技術上の基準に適合していると認められた後でなければ右移送取扱所を使用できず(罰則規定あり)、又同法一四条の三により本件移送取扱所の構造及び設備に関する事項が技術上の基準に従つて維持されているかどうかにつき、被申立人が行う保安に関する検査を毎年受けなければならないこと

(四)  参加人は、消防法一四条の二に基づき本件移送取扱所の火災を予防するための保守、運用に関し、保安のための巡視及び点検取扱い作業の基準、補修等の方法、保安監督体制等を内容とする予防規程を定め、右予防規程は昭和五三年四月被申立人の認可を受けたこと

を認めることができ、右によれば本件移送取扱所には保安設備が存在するほか、その運用にあたつても安全の確保が図られているといえる。

6  なお、申立人らは、本件移送取扱所の設置される伊達地方は、太平洋海底下に震源を持つ大地震の常襲地域の西端に位置し、そのすぐ北西には有珠山が存するから震度五以上の大地震が発生する危険性があると主張するところ、設置計画にかかる本件移送取扱所の構造が震度五の地震を想定した技術上の基準を十分に満足するものであることは前に一応認定したとおりであり、震度六以上の大地震の発生については、それが将来において絶対無いとは断定できないことはもちろんであるが、しかし、そのような大地震が、伊達地方に極めて近い将来発生することの蓋然性は、本件全疎明資料によるもこれを認めることはできないから、結局、この点につき回復困難な損害を避けるため緊急の必要性があるということはできない。

五  次に申立人らは、本件移送取扱所が存在することによる損害として、地下水流の変化による水位の変化に基づく地下水枯かつと浸水公害の発生、土中温度の上昇による農作物への被害等を主張するので、以下、この点につき判断する。

1  申立人らは、本件パイプの埋設により地下水流に変化が生じ、一方地下水位の低下又は枯かつが生じ、他方地下水があふれ出して土地が湿地化するなどの浸水公害を引き起こし、申立人らの生活や農業に損害が生じると主張するところ、本件疎明資料によれば、本件パイプ埋設工事現場において、地下水位が高く地下水が多量に存在するため、地下水を排水しながら工事を進めている場所が存することは一応認められるが、右埋戻完了後地下水位の低下又は枯かつもしくは土地の湿地化等の浸水公害が急迫に生じる蓋然性があることの疎明は十分でない。

2  申立人らは、本件パイプラインが存在することにより土中温度が上昇し、農作物に被害を及ぼすと主張するところ、本件疎明資料によれば、本件パイプラインで移送される重油等は粘性が高く常温では凝固するため、送油時、発ターミナルで最高摂氏六〇度に加温され、送油停止時にはセクト管を用いて最高摂氏六〇度に保持されることが一応認められるが、本件報告書によれば右パイプラインの設置により土中温度が上昇し周辺の農作物に何らかの被害を及ぼす恐れはないとされているほか、右のごとき被害を及ぼすこと及びその範囲、程度等についてはこれを認めるに足る疎明がない。

3  また仮に浸水公害の発生、土中温度の上昇等により農作物等への被害が生ずるとしても、右損害は金銭による賠償が可能と認められるから、回復困難な損害とはいえない。

4  申立人らは、その他にも本件パイプラインが存在することによる損害として、農業意欲の減退、不安感、イライラなどの健康上の被害を主張するが、これらはいずれも回復困難な損害にあたるということはできない。

六  申立人らは、さらに伊達発電所の操業により大気汚染及び海洋汚染が発生すると主張するが、本件許可処分は消防法一一条二項に基づくものであつて伊達発電所の操業についてこれを認めたものではなく、申立人ら主張のごとき同発電所の操業による大気汚染及び海洋汚染は消防法の目的とする保護法益とはいえず、本件許可処分の瑕疵の有無とは関係がないから、右被害をもつて本件許可処分による損害とすること自体失当である。

七  以上によれば、本件申立は申立人らの被る回復の困難な損害を避くるため緊急の必要のあることについての疎明が十分とは認められない。よつて、仮りに申立人らに本件申立人適格及び申立の利益があるとしても、その余の判断をするまでもなく、本件申立はその理由がないことが明らかであるから、これを失当として却下することとし、申立費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 古川正孝 島田充子 富田善範)

当事者目録<省略>

申立書

申立の趣旨

一、相手方が昭和五一年八月三一日、消防法一一条一項により北海道電力株式会社に対してした伊達発電所移送取扱所の設置許可処分の効力は、本案判決が確定するまで停止する。

二、申立費用は相手方の負担とする。

との裁判を求める。

申立の理由

第一本件許可処分

相手方は、北海道電力株式会社(以下北電という)が昭和五〇年九月八日申請した伊達発電所移送取扱所(以下本件パイプラインという)の設置を昭和五一年八月三一日、消防法一一条一項の規定により許可した。

第二本件パイプラインの概要

本件パイプラインは、北電の伊達火力発電所(出力七〇万キロワツト)の燃料を室蘭市陣屋町から伊達市長和町の同発電所まで輸送するための施設であり、その概要は次のとおりである。

一、石油圧送施設の種類および設置経絡

1 種類

名称―伊達発電所発電用燃料輸送パイプライン

送油油種―重油および原油

2 設置経路

別添図に示すとおり

延長―25,722m(発ターミナルポンプ出口~着ターミナルタンク入口弁)

口径―318.5mmφ

本数―一本

3 設置経路内訳

道路下           17,901m

線路敷下            47m

河川下            553m

地上(発着ターミナル構内) 1,078m

地上(河川横断)       417m

専用隧道内(崎守)      660m

専用隧道内(館山)      600m

民有地           2,744m

その他           1,722m

合計          25,722m

二、石油圧送施設の圧送能力および圧送方法

1 圧送能力

280kl/H(at 15℃)

伊達発電所で七〇万kw(三五万kw×二基)を発電するのに必要な燃料一日3,800klを一四時間で輸送する量

2 圧送方法

横型多段過巻ポンプによる圧送

ポンプ容量 280kl/H

ポンプ台数 二台(内一台予備)

圧送圧力(ポンプ出口)27.5kg/cm2G

3 輸送時間

一日一四時間

深夜の輸送を行わず、さらに毎日ラインパツクによる微少漏洩検知を行うため、一日の輸送時間を一四時間とした。

三、石油圧送施設の設置位置および設置方法

設置位置

施設の種類   設置位置

発ターミナル  室蘭市陣屋町一七三番地

パイプライン  室蘭市陣屋町―崎守町―伊達市―北黄金―稀府―清住―長和町

着ターミナル  伊達市長和町一六三

北海道電力伊達発電所

第三訴えの利益

申立人らは、伊達市に居住するものである。

本件パイプラインは危険性を有し(ひとたび火災、爆発、漏油が起つたならば申立人らの生命と財産に重大な被害を及ぼす)さらに、伊達市の環境をいちじるしく悪化させ、また本件パイプラインが完成し発電所の操業が開始されると大気汚染、海洋汚染などにより申立人らの生命と財産をおびやかし、平穏な生活を妨げ、いちじるしく申立人らに不利益をもたらす。(後記第五に詳述する)

第四本件許可処分の違法性

一、適正手続違反

1 本件パイプラインのように環境に重大な影響を及ぼし、かつ重大災害をおこすおそれのある危険な工作物の設置を許可するに際しては、相手方は、憲法三一条の適正手続の要請上、地域住民に対し、告知聴問の機会を与え、不安を解消すべき法律上の義務を負う。

2 告知聴問の内容はいわゆる環境影響事前評価手続をすることであり、これには最小限、次のような手続を行わなければならない。

(一) 北電に対し、本件パイプラインが自然的、社会的環境に及ぼす影響について科学的な調査を行わせ、また代替案(他の輸送手段ないし他のルート)を提出させ、これを審査し、これら調査および審査結果を住民に公開する。

(二) 右につき、住民に意見および証拠を提出する機会を与え、これに誠実に応答し、審査に反映させる(再調査や計画の変更)ことにより、住民の不安や疑問を解消する。

3 しかし、相手方は右の手続を全く行わなかつた。本件パイプラインは、北電の伊達火力発電所(出力七〇万キロワツト)の燃料輸送手段であるが、本件許可に至る経過の概要は次のとおりである。

(一) 北電は、昭和四五年初めころから伊達市長和地区に重油専焼火力発電所を建設する計画を立て、当初は出力二五万キロワツト一基、燃料は地先海岸に桟橋式突堤埠頭を造つて、タンカーから直接受け入れる計画であつたが、同年一〇月計画を変更し出力は三五万キロワツト二基、燃料受け入れはエントモ岬に小型港湾を設け、タンカーによるとした。

(二) 北電は昭和四六年六月タンカーによる海の油汚染を防ぐため、燃料搬入はパイプラインにすると公表し、翌昭和四七年七月、北電と伊達市の間に締結された公害防止協定においても「燃料油の搬入についてはパイプラインによる。」とされたが、ルートは明らかにされておらず、住民の納得をえてはいなかつた。

(三) 相手方は、昭和四七年八月、地元の了解をえないまま電源開発調整審議会に同意意見書を提出し、これを受けて同年一〇月同審議会は伊達火力発電所を電源開発基本計画に組入れた。通産大臣は同年一一月北電に対し、電気事業法八条による変更(伊達火力新設)を許可した。

(四) 昭和四八年六月、北電は警察機動隊を導入して発電所本館建設工事に着手した。

(五) パイプラインについては、ルートはもちろん何の説明も住民にはなされなかつたため、昭和四九年末ごろから、住民は疑問や不安を感じて、予想ルート沿に続々とパイプライン反対住民団体が結成され、昭和五〇年六月、伊達市の住民四、七五五人が伊達市議会、および北海道議会に対してパイプライン反対の請願を行つた。

(六) 北電は昭和五〇年六月になつてはじめて本件パイプラインルートを公表した。北電は同年六月九日から一九日の間にルート沿線五地区で説明会を行う予定であつたが、その初日の黄金小学校を会場とする説明会、一〇日の黄金母と子の家を会場とする説明会が、住民の反発にあつて開催不能となつた。六月一一日北電は公開説明会を中止すると発表し、これにより北電は暗闇にまぎれて、こそこそと住民だましの非公開で、より小さな単位での説明会を始めるが、その内容たるや、住民から質問がでても即答できず「できるだけ安全なものをつくりたい」、「安全に努力する」と言うだけで、全く説明会といえるシロモノでなかつた。さらに「農民があくまで土地売却を拒否する場合には土地収用法をかけてでもパイプラインを敷く」とおどかした。相手方は、同年八月、住民の不安を解消するため、北電に対し、左記の四条件をみたすよう指導し、この四条件がみたされなければ、北電のパイプライン許可申請を受理しないと言明した。

<1> 地権者の了解を得る。

<2> 関係住民に説明会を徹底する。

<3> 反対団体と話合いを煮詰める。

<4> 伊達、室蘭両市長の了解を得る。

(七) しかし、相手方は、右四条件がみたされていないまま、昭和五〇年九月八日北電のパイプライン許可申請を受理した。

(八) 相手方は、右許可申請の審査にあたり、昭和五〇年一〇月二九日、「<1>消防法に定める専門的事項 <2>安全性の確保 <3>その他環境保全などに関する事項について意見を提言する」ため一一名の学者に委嘱して技術専門員会議を発足させた。

(九) 技術専門員会議は昭和五一年三月三一日、消防法に定める専門的な事項についてのみ審査した欠陥報告書を相手方に提出した。

(一〇) この間申立人らを含む住民は相手方に対し本件パイプラインの危険性等につき、公開質問状や要望を提出したが、相手方は、これに誠実に対応しなかつた。昭和五一年六月に相手方が伊達市で形式的な住民説明会を開催しようとしたが、関係者との意見疎通を欠いたとの理由で結局中止した。

(一一) 相手方は、昭和五一年八月二五日、伊達市長に対し本件パイプライン設置について意見を求め、これに応じ伊達市長は同年八月三〇日、左記要望事項を含む回答を相手方に提出した。

<1> 市民の疑問や不安の解消のために積極的に対策を講じること。

<2> 市民団体などからの要望に対しては積極的に対応されること。

<3> 未だ二名の地権者の了解がえられていないので、これらの了解がえられるよう北電を指導すること。

<4> 安全確保に万全の配慮をすること。

(一二) 相手方は昭和五一年八月三一日、北電に対し本件許可処分をした。

4 以上の経過から明らかなとおり、本件許可処分には次のような手続上の違法がある。

(一) 北電に環境影響事前調査をさせていないし、相手方自らもその調査をしていない。

(二) 北電の申請書、付属書類等の資料を住民に公開しなかつた。

(三) 住民の不安や疑問を解消し、沿線住民の了解をえる努力を怠つた。

(四) 申請受理の前提として前記四条件をみたすことを言明しながら四条件をみたさないまま申請を受理したのは重大な背信行為である。

(五) 伊達市長の意見を無視した。消防法一一条四項は関係市町村長の意見申出権を認めている。知事は市町村長の意見に拘束されることはないが、これを尊重し、少なくとも相当な考慮を払うことが法律上要求されていると解される。

しかし相手方は伊達市長の意見が提出された翌日に本件許可処分を行つているのであつて、伊達市長の意見に対し相当な考慮を払つたものとは到底認められない。

(六) 相手方は地方公共団体の長として一般的に環境を保全し、住民の安全、健康、福祉を保持する責務があり(公害対策基本法五条、地方自治法二条三項一号)、本件パイプラインの許否を審査するについては、安全性および環境保全について審理する責任がある(消防法一一条二項後段、なお電気事業法一条)。

しかし、相手方は安全性および環境保全について十分な審査をしなかつた(後記二、三、四)。

(七) 相手方は北電寄りの片寄つた立場で審査した。

相手方はかねてから開発推進論者で、昭和四七年七月電調審へ同意意見書を提出し、昭和四八年六月伊達発電所の公有水面埋立て免許をし、同月北電の発電所本館着工に当つては、現地へ警察官を派遣して強行着工を容易にし、既成事実のつみ重ねをしてきた。発電所本体が完成している現段階で相手方は燃料輸送パイプライン設置についてとらわれない公正な審査をする立場になく、許可の結論はすでにでていた。

二、本件パイプラインの危険性

1 パイプラインの基本的性格と本件パイプライン計画の誤り

(一) 二地点間に大量の石油類を定常的に輸送しようとする高圧パイプラインは、必然的に、その通過地域に大災害の危険をもたらすことになる。まずその石油類が重油であつたとしても、通常の生活内に普通に存在する木材や紙などに比して燃えやすく、しかも、単位容積当りの発熱量は極めて大きく、一旦発火した場合には大火災となる可能性が高いことは常識となつている。

そして、タンクローリーや貨車による輸送では可燃物が局地的に存在しているのであるが、パイプライン輸送においては、その沿線地域に大量の可燃物が連続的・恒常的に存在していることになり、事故の際の被害の程度は、前者の間歇的手段による場合を大幅に上廻る。

また、流体が高圧下に移動しているので、パイプ破損が生じれば、仮りに保安装置が正常に作動しえたとしても、瞬時に停止することはできず、一定量の高圧の石油類の流出はまぬがれず、さらに停止後においても、常圧の石油類が大量に(キロメートル間にタンクローリー五〇~一〇〇台分)破損付近にとどまり、管勾配によつて流出し続けることになる。幸いに火災が発生しなくても、大量の流出油は付近を汚染し環境破壊はまぬがれない。

高圧石油パイプラインは外国では一〇〇年の実績を持つと言われているが、技術的にみるならば、高圧石油パイプラインは荒野を走る原油ラインとして開発されてきたものであり、そこに技術体系の本質を置いている。

アメリカのパイプラインは、原油パイプラインおよび石油製品パイプラインのいずれも、地盤がきわめて堅硬で、地震もほとんど発生しない中部から東部地域に集中し、日本列島と同様の環太平洋(火山・地震・造山)帯に属する西部地域にはきわめて少ないこと、また、西部地域にわずかながら存在するパイプラインも、その大部分は人口密度がきわめて低くしたがつて事故が発生しても大災害の起らない場所に敷設されているのも前記の基本的な技術上の性格をよく示している。

(二) 現在工事の行われている北電の伊達パイプラインルートの自然条件についてみるならば、地形・地質については、わが国の海岸部で通常みられるそれらの複雑さの程度を上廻る複雑さを持っている。数多く(二〇以上もの)の谷川をくぐり、小さな尾根筋をいくつも越え地質の変化に富んだ地帯を通過せねばならない。その上、山から海岸への地下水流の豊富な地帯であつて、地下水位が高く、湧水地が何個所かみられる。

また、ここは火山地帯でもあり、昭和五二年八月七日に有珠山が大噴火して以来、地震が現在でもまだ続いている。この有珠山噴火は地震が多発しはじめてから一日しかなく、前夜は昭和新山火まつりで約五万人の見物客でゴツタがえしていたほどで、学者をはじめ誰れもがこんなに早い噴火を予知しえなかつたのである。自然の営みに対して科学は万能ではないことがあらためて思い知らされたわけである。また噴火による降灰で視界はほとんどきかなくなり交通が渋滞した。住民の避難に際し道路がいかに重要なものであり、かつまた自動車が発達している現在、道路の通行はいとも簡単に不能となることも明らかとなつた。したがつて、このようなところにパイプラインをつくることがいかに危険なものであるか、住民の安全をそこねるものであるか明らかであろう。

この自然条件は、工事中の困難さと出来上り状態の不安定(設計条件を満たさないおそれ)を予想させ、一応完成したとしても、経済的に地盤を完成時の状態に保つことは非常にむずかしい。

さらに社会的条件を比較するなら、もつと悪条件下にあることは自明であろう。豊かな農業地帯を分断し、集落を貫通し、人家の軒先を通り、かなりの通行量のある道路に沿つて埋設されざるを得ないという条件をもつ。

横山伊達市長は、昭和五〇年度「市政執行に対する考え方について」の中で、伊達市を農漁業を軸に地場産業を発展させていくことを表明している。それなのに北電の伊達パイプラインは伊達市館山町の農業振興地域を真中から分断し、健全な営農を妨害し、また将来伊達市で計画している市街化区域のうち四個所(南稀府で二個所、竹原町、館山下町)を通過する。

したがつて、このような自然条件は、前述の「一様な荒野」におけるパイプラインとは全く異なる状況下におかれた構造物とみなされねばならず、その意味では、前例に乏しい構造物と言わねばならない。

また社会的条件についていえば、いわば沿線住民の日常生活の中に異常な危険物(高圧、大量の可燃物)が接近し、介在することになるのであつて、前述の技術上の基本性格と相入れることは出来ない。

北電は当初燃料はタンカーで直接発電所に受け入れるとしていたが、後に海の油汚染を防ぐためパイプラインにすると発表した。そしてパイプラインルート決定に当つては海側ルート、山側ルートおよびその中間のルートを検討した結果、山側ルートが安全性が高いと判断したとしている。これは危険ななかでも比較的危険でないと言つているだけで、ようするに燃料輸送を危険な海から危険な陸に換えて行うということにすぎない。

以上述べたことから、伊達地方に石油パイプラインを敷設することは自然的、社会的条件からも明らかに受け入れられるものではない。北電の伊達パイプラインの計画自体が間違いなのである。

2 技術基準の不備

(一) 北電は消防法の技術基準通りに伊達パイプラインを敷設するから安全であると主張している。

そもそも消防法におけるパイプラインの技術基準は石油パイプライン事業法のそれに準じて作成されたものである。この石油パイプライン事業法の技術基準が制定されたのは昭和四八年のことであり比較的新しいものである。そして、すでに述べた技術上の基本性格からも地震国で軟弱な地盤の多いわが国にパイプラインの技術基準を導入することから無理である。その無理を通そうとしたことから、この基準には不十分なところや誤りすらみられる。

消防法の技術基準の誤つている例を一つだけ示しておくと、告示第一二条によれば、通常の高圧パイプラインにおいては、第一項の「内圧によつて配管に生じる円周方向応力度」が支配的となつて、第二~五項の応力度は、それに比して小さな値となるような計算式が規定されている。しかるに、現実に発生している地下埋設管の事故例は、ほとんど全て、地中梁とみなした、管に周囲の地盤から作用する土圧の異常によつて生じる軸方向曲げ応力によつて破損している。したがつて第一二条に規定によつてなされた設計は、事故状態と無関係なものとなつてしまう。要約すれば、事故は「外力による軸方向応力度」によつて生じるにもかかわらず、技術基準は「内圧による円周方向応力度」によつて設計するようになつているのである。

技術基準はパイプライン企業者が遵守すべき技術上の義務規定であるが、この基準をみたすことが、特定地点に設置された具体的なパイプラインの安全性を保証するものではない。換言すれば、この技術基準は、安全確保のための必要条件なのであつて、決して十分条件ではないのである。

(二) 基準をみたしていても実際に事故を起し人命を奪つた例は北電にもある。札幌市の豊平川にある北電の砥山ダムで昭和五二年八月一二日、定期的に行う毎秒三トンの水を放流中、突然ダムが全開した。その結果同市白石区の豊平川鉄橋の下流五〇〇メートルの中州で釣りをしていた人が増水により流され死亡した。北電では「このあたりは川幅も広く、通常の放水では水位が大きく上がることは考えられない」として、警報体制をとつていなかつた。昭和四八年一〇月にも、同じ砥山ダムから警告なしの放流がされたため、札幌市内の十五島公園で炊事遠足中の中学生二人が死亡した。北電は同じ事故を二度もくり返した。そのうえ五二年の事故の原因をいまだ北電は究明できないでいる。

現実に起つた事故の原因も究明できない北電がはじめて手がける大工事がこの本件パイプラインである。現に一部工事が行われているが、一度掘削した場所(四工区の三)を昭和五二年七月一日、雨が降つて大量の水がそこに入り込んだところ、約五〇メートルにわたつてあわてて埋めもどした。設計どおりの工事ができないでいる個所、さらには北電が住民に対し宣伝したいたような工事をしていない個所はこの他いたるところにある。

パイプが地下に埋設されることによつて地下水の流れに変化をきたし枯かつによる地盤沈下を生じさせ、パイプを破損させる可能性はきわめて大きい。北電はそのおそれはないと主張しているが、北電はすでに、伊達火発取水路建設工事において、地下水枯かつ公害を引き起こしている。一日あたり約六、〇〇〇トンの地下水を汲み上げて、これを海に流したため、昭和四八年一二月ないし四九年一月ごろから建設工事現場を中心とした長流川右岸の長和地区に地下水枯かつ公害が発生した。

相手方は北電との間に協定された「伊達発電所に係る燃料輸送パイプラインに関する協定書」に従えば、安全の確保と環境の保全が図られると主張している。しかし、事故が起つた場合、洩れた油をどのように仕末するのか、そのとき住民はどの道を通つてどこへ避難すればよいかなどの具体的問題にはなにひとつ触れていない。これで安全が図れるとは考えられない。相手方が立会人となつて伊達市と北電とで結ばれた「伊達火力発電所の公害防止に関する協定書」の第一八条(二)に発電所の建設中における災害を防止するため万全の措置を講ずると定められているが、今までの工事中に三名の事故死亡者をだしている。

以上述べてきたように基準自体が不備であり、かつまた基準どおりに本件パイプラインがつくられたとしても安全であると言えないことが明らかである。

三 本件パイプラインによる環境破壊

(一) 伊達地方に石油パイプラインを敷設すること自体間違いであることはすでに述べた。パイプラインの破損により火災を伴う大災害のおそれがあるからである。さらに火災を伴わない事故あるいはパイプラインがそこに存在すること自体による環境の破壊にも注目する必要がある。

パイプライン埋設が地下水の流れを変え、地下水位の低下および地下水の枯かつが生じたとき、地盤沈下が起りパイプを破損させることはすでに述べたとおりであるが地下水位の低下および地下水の枯かつは他にも農業を営むうえにも重大な障害を及ぼす。

一方パイプライン埋設工事に際して、北電は地下水位が高い場所では埋設場所の両避に矢板を立て、地下水脈あるいは地下水盆を遮断して、埋設場所へ地下水の滲透を防ぐといつているので、矢板の外側の場所は地下水が上昇し、ついには地上にあふれ出すという浸水公害を引き起こす可能性が生じる。

とくに、伊達市清住地区などのように、地下水位が非常に高い場所では、こうした可能性が多分にあると考えられるが、そうなると、土地のかなりの部分が湿地化してしまう。

(二) パイプライン破損時に緊急遮断弁がはたして設計どおりに作動する保証はないし、かりに設計どおり作動したとしても二つの緊急遮断弁にはさまれた間に残つている石油が、折損部分から漏洩する恐れは、やはりあるといわねばならない。したがつて、そのような場合には、地下水が油汚染され、飲料水としても、農業用水としても不適なものとなり、最終的には河川、海をも汚染することになる。

その他地下水の変化に伴う影響は、土地の陥没、砂質地盤の液状化現象、地すべり、崖くずれ、山崩れ、土砂流出などを挙げることができる。

(三) 本件パイプラインは常時六〇度Cに加温され、異常時にはそれ以上に加温されるので周囲の土中温度を上げ、農作物などに悪影響を及ぼす。

(四) したがつて環境を破壊し、大災害を引き起す可能性の大きい本件パイプラインが伊達地方に敷設される正当な理由は全く見当たらない。だから伊達発電所へ燃料を輸送する方法が無いことになる。燃料が無ければ当然のことながら発電が出来ないことになる。したがつて伊達地方に火力発電所をつくる計画自体が間違いであるとの結論に達する。火力発電所が無ければ大気汚染、温排水による海洋汚染の心配をしなくともよく、パイプラインによる災害や環境汚染の心配もなく、今までどおりの良い環境の中で平穏な生活を申立人らを含む伊達市民は送れるものである。

四 技術基準違反について

本件パイプラインは、消防法の適用を受け、消防法一〇条及び危険物の規制に関する政令三条に規定されている取扱所の区分のうち、移送取扱所に該当するものである。

また、消防法一一条一項に、移送取扱所が二つの市町村以上の区域にまたがつて設置される場合、都道府県知事の許可を受けなければならない旨、規定されており、本件パイプラインが室蘭市及び伊達市にまたがつて設置される計画であることから、相手方の許可が必要となる。

一方 同条二項に、許可権者は、

<1> 取扱所の位置、構造及び設備が一〇条四項の技術上の基準に適合し、かつ

<2> 取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の防止に支障を及ぼすおそれがないものであるときは、許可を与えなければならない旨、規定されている。

消防法一〇条四項では、取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は政令で定めるとあり、危険物の規制に関する政令六条の二では、移送取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、石油パイプライン事業法一五条三項二号の規定に基づく技術上の基準に準じて自治省令で定めるとある。また、これを受けて危険物の規制に関する規則(以下「規則」という)の二八条の二から二八条の五三までに、移送取扱所に関する定めがあり、更に、危険物の規制に関する技術上の基準を定める告示(以下「告示」という)があり、移送取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、主に規則及び告示によつて規定されている。これらを総称して技術基準と呼んでいる。

しかしながら、規則及び告示の規定は「保全上適切な措置を構ずる場合」(規則二八条の三の二項)「他に悪影響を与えないような構造としなければならない」(規則二八条の一一)「堅固で耐久力を有し、かつ配管の構造に対し支障を与えない構造のものとする」(告示二五条)「十分締め固めること」(告示二七条)「保安上必要がある場合には……」(告示三九条)など具体性のない規定が多く、移送取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準としては極めて不十分である。

従つて、規則及び告示を満足したからといつて本件パイプラインが安全であることにはならない。特に相手方は北郷北海道大学教授ら一一名の技術専門員(以下「技術専門員」という)を委嘱し本件パイプラインの技術審査を行なわせたが、技術専門員は全くデタラメな審査しか行なわなかつた。

相手方は、昭和五一年八月三一日付で本件パイプラインの許可処分を行なつたが、この許可処分は前述の消防法一一条二項の規定に違反している。以下、規則及び告示の順に従つて違法事項について例記する。

2 違反事項について

(一) 規則二八条の三の一項三号に、狭あいな道路に移送取扱所(以下「パイプライン」という)を設置してはならない、と規定されている。

ここで狭あいな道路の基準は、明確には規定されていないが、常識的に判断すると、対向する自動車の通行が自由にできない道路ないしは、道路構造令五条で規定されている、車線の数が二以上で、かつ車線の幅員が2.75m以上の道路以外の道路が該当する。

特に、危険物である原油及び重油を輸送する本件パイプラインで、事故が一度発生したならば、被害を最少限にとどめるために、住民を迅速に避難させ、復旧工事を早急に行なう必要がある。このような場合道路の確保がなによりも重要であることは自明のことであり、対向する自動車の通行が自由にできる二車線以上の道路が必要である。

しかし、本件パイプラインが設置される道路では、路面幅が5m以下の狭あいな道路に該当する箇所が、伊達市道の黄金三〇号線、稀府七号線、稀府八号線、稀府二〇号線、西一号線、西八号線、館山一〇号線、館山道、館山上道等、随所にある。従つて、規則二八条の三の一項に違反している。

なお、規則二八条の三の二項に、地形の状況その他特別の理由により、やむを得ない場合であつて、かつ保安上適切な措置を講ずる場合は、狭あいな道路にも設置できる旨の規定があるが、本件パイプラインの場合、狭あいな道路以外の場所に設置できる余地が存在する以上、地形の状況その他特別の理由によりやむを得ない場合に該当しない。

(二) 規則二八条の四に、配管、管継手及び弁(以下「配管等」という)の材料は告示で定める規格に適合するものでなければならない、と規定されている。

告示五条に配管等の材料の規格が規定されているが、同条一号に、配管にあつては、日本工業規格「圧力配管用炭素鋼管」「高圧配管用炭素鋼管」「高温配管用炭素鋼鋼管」又は「配管用ステンレス鋼鋼管」とされている。

しかし、本件パイプラインでは、米国石油協会規格API5LX-X52及びAPI5LX-X60を用いるとしており、告示五条一号に規定されている規格に適合していない。

なお、規則二八条の四の但し書きに、配管の設置場所の状況等から、これによることが困難であると認められる場合は、これと同等以上の機械的性質を有するものとすることができると規定されているが、本件パイプラインでは困難である理由が存在しない。従つて、規則二八の四及び告示五条に違反している。

(三) 規則二八条の五に配管等の構造について規定されており、これに関し告示六条から一七条までに細目が定められている。

(1) 告示一一条二号で配管に作用する土圧計算について定めている。

北電の許可申請書(以下「申請書」という)では、埋設深さを1.56mとして計算しているが、本件パイプラインは、室蘭市の臨港道路で2.5m以上、伊達市の道々東関内伊達紋別停車場線市道館山一〇号線その他の位置で2m以上の埋設深さの箇所があるので、この埋設深さ1.56mは実際の埋設深さより小さい。

また、申請書では、外装材の外径424mmを用いず、それより小さい内側の鋼管の外径318.5mmを用い、技術専門員に外装材を無視した設計上安全側の計算によつて検討していると言わしめたが、土圧計算においては、安全側の計算どころか、計算に必要な埋設深さ、外径の数値を故意に小さく設定し、危険側の計算を行なつている。

また、同条で、くい等で支持されている場合の土圧計算についても定めているが、館山下地区で鋼管抗支持の構造を用いるにもかかわらず、計算を行なつていない。従つて、告示一一条二号に違反している。

(2) 告示一一条四号で列車荷重の計算方法を定めている。

本件パイプラインは、室蘭市で一箇所伊達市で二箇所で鉄道の下を横断しているにもかかわらず、列車荷重の計算を行なつていない。従つて、告示一一条四号に違反している。

(3) 伊達地方は日本有数の活火山地帯であり火山活動の影響を受けやすい。従つて、パイプラインに及ぼす影響は十全の配慮を必要とする。

告示一三条に規定されている地震の影響は配管の強度に関するものであり、付属設備等を含めパイプラインシステム全体の地震に対する安全性を定めたものではない。

申請書では、せん断弾性波速度を標準貫入試験により求めたN値より推定する方法により求め同条に定められている計算を行なつているが、これは違法である。せん断弾性波速度は、実測可能な値であるので実測値を用いるのが当然である。また、一部実測したものもあるがN値より求めた結果を比較すると、せん断弾性波速度は一致していない。その他、伊達地方の地震の影響等が考慮されていないので、地震に対して安全であるとはいえない。

(4) 告示一六条一号に配管の曲り部の計算は、配管の設計に準じて行なうほか、曲り部のたわみ性及び応力集中を考慮して行なうことと定められている。

この規定は、たわみ性及び応力集中について具体性に欠けているが、申請書ではたわみ性応力集中について全く触れられておらず、従つて考慮しているとはいえないので告示一六条一号に違反している。

(5) 以上配管等の構造について告示の規定に違反しており、各種の荷重によつて生ずる応力に対して安全なものでなければならないと定めている規則二八条の五に違反している。

(四) 規則二八条の六に、配管の有害な伸縮が生じるおそれのある箇所には告示で定めるところにより当該有害な伸縮を吸収する措置を講じなければならないとし、告示一八条一号で原則として曲り管を用いることと定めている。

しかし、申請書では、地上部では曲り管、地下部では土壤拘束としているが、地上部の曲り管については、(三)の(4)で述べたとおり、たわみ性応力集中を考慮したものではなく違法であり、また地下部の土壤拘束については、配管のまわりの置換砂が十分締め固められていることが前提となるが、伊達地方の地下水の多い地質上の影響を考慮すれば、土壤拘束が有効であるとは限らないので伸縮吸収措置とはなり得ない。

従つて、規則二八条の六に違反している。

(五) 規則二八条の八に配管等の溶接について、また告示一九条から二一条までに溶接方法その他必要な事項について定めている。

溶接の良し悪しは、管の材質、溶接材料、溶接材器などの他に気象条件、溶接工および溶接作業環境などの影響が強いものであるが、これらについて告示では何ら規定しておらず極めて不十分な規定となつている。

告示二一条一号イに配管を突き合わせて溶接する場合の平行な突き合わせ溶接の間隔は原則として管径以上とすることと規定されている。

しかし、申請書によれば、緊急しや断弁附近の管の溶接部は管径以下となつており告示の規定に違反している。

また、告示二一条二号に配管の溶接にあたつては位置合せ治具を用い、しん出しを正確に行うことと定められているが、申請書添付資料のしん出し治具では、正確にしん出しできないばかりか鋼管にキズをつける恐れもある。従つて、告示二一条二号に違反している。

以上規則二八条の八の配管等の溶接についての規定に違反している。

(六) 規則二八条の九に防食被覆について、告示二二条に外面腐食を防止するための措置について定めている。

申請書では、防食被覆に硬質ポリウレタン、FRV、ポリエチレンを用いて行うとしており、告示二二号一号ロに規定されている覆装材を用いていないばかりか同号イに規定されている塗装材を用いていない。

従つて、規則二条の九に違反している。

(七) 規則二八条の一〇に電気防食について告示二三条に電気防食措置について定めている。

しかし、この規定は、告示二三条一号の配管等の対地電位平均値の測定方法、同条二号の電位測定端子の適切な間隔および同条三号の漏えい電流の影響を受けるおそれのある箇所など、具体性に欠ける規定となつている。

申請書では、電気防食をどの位置に施すのか明記されていないばかりか電位測定端子の設置も不明である。

従つて、規則二八条の一〇に適合しているとはいえない。

(八) 規則二八条の一一に配管等に加熱又は保温のための設備を設ける場合は、火災防止上安全でかつ他に悪影響を与えないような構造としなければならないと定めている。

しかし、本件パイプラインはセクト管により加温するが北電が伊達市萩原町で実験したところによれば、冬期霜柱が発生せず、さらに植生が正常ではなかつた事実があり他に悪影響を与える。また、セクト管を本管に溶接し本管の材質劣下を生ずること、パイプラインの故障で管内の温度が低下し油の粘度が高くなつたときセクト管を用い加熱することがありうるが、そのような場合のセクト管内のケーブルの安全性など、火災予防上安全な構造となつていない。

従つて規則二八条の一一に違反している。

(九) 規則二八条の一二および告示二四条から二七条までに地下埋設について規定している。

(1) 規則二八条の一二、三号に配管の外面と地表面との距離は、山林原野にあつては0.9m以下その他の地域にあつては1.2m以下としないことと定められている。

しかし、本件パイプラインはその他の地域に該当するが、申請書では、崎守トンネル内および伊達市道黄金一号線大谷地附近では1.2m以下となつており規則に違反している。

なお、この規定は、盛土をすることにより盛土上面から管外面との距離を規定したものではない。

(2) 規則二八条の一二、四号に配管は地盤の凍結によつて損傷を受けることのないよう適切な深さに埋設することと定めている地盤の凍結深さについて、北電は実測したことはない。従つて、適切な深さに埋設されているかどうか不明であり同条四号の規定を満足しているとはいえない。

(3) 規則二八条の一二、五号に盛土又は切土の斜面の近傍に配管を埋設する場合は、告示で定める安全率以上のすべり面の外側に埋設することと定め、告示二六条で斜面のすべりに対する安全率は1.3とする、と定めている。

申請書添付資料において、伊達市道黄金一号線石川町寄りの斜面および館山トンネル出口側附近の斜面について斜面安定計算を行つているが、この計算に必要な土質定数および地下水位を測定せずに計算を行つている。従つて、斜面すべりに対する安全率の計算は、虚偽の計算を行つているので規則二八条の一二、五号に違反している。

(4) 規則二八条の一二、六号に配管の立ち上がり部、地盤の急変部方等支持条件が急変する箇所については、曲り管のそう入、地盤改良その他必要な措置を講じることと規定されている。

伊達市道黄金一号線大谷地附近での掘削溝の深さは1m以下であり、これは、他の掘削溝の深さと比べ異常に浅くなつており、この附近の土質が他と著しく異なつていることを意味している。

すなわち、地盤の急変部、支持条件が急変する箇所に該当するが、地盤改良その他必要な措置を講じる必要があるにもかかわらず行つていない。

従つて、規則二八条の一二、六号に違反している。

(5) 規則二八の一二、七号および告示二七条に掘削及び埋めもどしについて定めている。

配管のまわりに砂若しくは砂質土を敷き十分締め固めることになつているが、本件パイプラインの場合、地下水及び雨水の浸透が防げず、十分締め固まつた状態にならない。従つて、この規定に違反している。

また、十分締め固まつた状態にならないと告示一二条二号の配管に係る応力度の計算方法の前提が異なつたものとなり、告示一二条二号にも違反する結果となる。

また、掘削溝の底面に岩石を敷くことあるいは塩ビ系のパイプを埋設することは、告示二七条一号、配管をできるだけ均一かつ連続に支持するよう施工することとした規定に違反する。

(一〇) 規則二八条の一三に道路下埋設について規定しているが、伊達市の将来の都市計画を考えると、南稀府、竹原地区は、市街地として取扱うのが妥当であり、かつその他の地区も市街地に準ずる取扱いをするのが妥当である。

規則二八条の一三の四号に市街地の道路下に埋設する場合防護工を設けるか、防護構造物の中に設置することが定められているが、南稀府、竹原地区にはこれらの防護工・防護構造物の措置が講じられていない。また、清住地区、館山地区などにおいて、路面下に設置されるにもかかわらずこれらの措置が講じられていない。従つて、安全性を考慮した場合、規則を満足しているとはいえない。

(一一) 規則二八条の一九の二号に道路を横断して配管を設置する場合は、配管をさや管その他の告示で定める構造物の中に設置しなければならないと定めている。

しかし、室蘭市道石川二号通線付近交差点をはじめ館山元浜旧道付近の交差点など、交差点付近を通過する場合の道路横断部など、さや管その他の告示で定める構造物の中に設置していない箇所である。

従つて、規則二八条の一九に違反している。

(一二) 規則二八条の二一に河川等横断設置について規定されている。

(1) 本件パイプラインが横断する河川は、申請書では一八箇所とされており、実際の河川横断箇所は二七箇所にもおよぶので横断する箇所が一致しない。従つて、二八条の二一の規定を無視した箇所があり違法である。

また、同条三項に河川の計画河床高と配管外面との距離を定めているが、計画河床高を北電が勝手に決めたアヤメ川その他の普通河川があり、河川構造令二条の計画河床高に違反しており、従つて、規則二八条の二一の三項に違反している。

(2) また、専用橋による河川横断個所は、地上設置となるので、告示第三二条に定める施設に対する水平距離を有しなければならない。しかし、ペトトル川、チマイベツ川、紋別川、気門別川のそれぞれの横断個所で、この規定に違反している。

(一三) 規則二八条の二二に市街地並びに河川上、隧道上及び道路上その他の告示で定める場所に配管を設置する場合は、告示で定めるところにより、漏えいした危険物の拡散を防止するための措置を講じなければならないと定め、告示三九条に、これらのことについて定めている。

特に、告示三九条五号に、砂質土等の透水性地盤(海底を除く)中、堅固で耐久力を有し、かつ、配管の構造に対し支障を与えない構造物(地下水位下に設ける場合は、水密構造のものに限る)の中に配管を設置すること。この場合において、保安上必要がある場合には、両端を閉そくしたものとすると定めている。

ここで、透水性地盤は、一般的には礫径が大きく、水の通しやすい地盤であるとされている。本件パイプライン沿線では、河川流域および牛舎川、谷藤川などの扇状地が、これに該当する。

しかし、透水性地盤である牛舎川および谷藤川の扇状地において、告示三九条五号に定められている構造物の中に配管が設置されておらず、違反している。

(一四) 規則二八条の二三に、配管を設置するために設ける隧道(人が立入る可能性のあるものに限る)には、可燃性蒸気が滞留しないよう必要な措置を講じなければならないと定めている。

申請書によれば、現場にて任意に運転あるいはガス検知により遠隔運転で強制換気するとし、また、自然換気用ガラリを設けるとしている。しかし、崎守トンネルの自然換気用ガラリについては、パイプを埋設したうえに盛土をするため、その盛土部に自然換気用ガラリが位置するので、換気の用をなさない。

また、換気扇容量決定根拠として、対象原油としてカフジを用いているが、一般にはカフジは硫黄含有量が高い(約3.0%)ので、伊達火発の燃料油としては、公害防止協定からみても明らかに不当であること、原油漏えい時に発生する可燃性ガスの濃度を爆発下限界の二分の一以下の濃度となる容量としたとしているが、吸排気を開始してから何時間後にその濃度になるか明記していないので不当である。

従つて、可燃性蒸気が滞留しないよう必要な措置を講じなければならないとした規則二八条に違反している。

(一五) 規則二八条の二四に不等沈下、地すべり等の発生するおそれのある場所に配管を設置する場合は、当該不等沈下、地すべり等により配管が損傷を受けることのないよう必要な措置を講じ、かつ配管に生じる応力を検知するための装置を設置しなければならないと定めている。

しかし、申請書では不等沈下、地すべり等を生じるおそれのある個所はないとして、同条の規定を全く無視している。

伊達市道黄金一号線大谷地付近は泥炭地であり、そのため土盛をしてパイプを埋設したことにするなど違法な工法としており、さらにその付近で、申請書によれば不等沈下計を三個所も設置している。これらのことは、大谷地付近が同条の規定している不等沈下の発生するおそれのある場所に該当することを示している。

また(九)の(1)で前述した如く、違法な斜面安定計算を行つた伊達市道黄金一号線石川町寄り、館山トンネル出口側付近および室蘭市崎守町の崖錐斜面は十分地すべりの発生するおそれがある。

従つて、これらの個所で規則二八条の二四で規定する必要な措置を講じておらず、かつ、配管に生じる応力を検知するための装置を設置していないことは違法である。

(一六) 規則二八条の二七に、配管等の溶接部は放射線試験を行い、これに合格するものでなければならない旨定め、告示四一条に合格基準について定めている。しかし、実際の放射線試験において、誰がどの様にして試験を行ない、その結果を誰がどのようにして判定するのかが定められていない規定では、検査の意味をなさない。

従つて、放射線試験に関する規則および告示は極めて不十分である。

ところで、申請書では、パイプライン本管の溶接のほかに、セクト管を本管に接合するための溶接があるが、このセクト管の溶接については放射線試験を行なつていないので、違法である。

また、本管の溶接部では、溶接部に手直しを加え放射線試験を行なつているが、これは検査を合格させんがための手直しであり、違法である。

パイプラインの溶接は、安全性にとつて極めて重要であるにもかかわらず、溶接部の非破壊試験の規則、告示の規定が不十分であり、さらにそのうえ、本件パイプラインでは規則、告示にも違反しており、危険性を高めている。

(一七) 規則二八条の二九に運転状態の監視装置と警報装置

規則二八条の三〇に安全制御装置、

規則二八条の三一に圧力安全装置について定めているが、これらの装置が設けられたとしても、パイプラインの危険性がなくなるものではない。つまり、これらの装置が常に正常に作動しているとは限らず、むしろ、これらの装置が正常に作動しなかつた時に事故、災害が生ずるのが常である。

最近では、ヘビの浸入が原因ではないかと北電が発表した昭和五二年八月一二日北電砥山ダムの誤作動による放水により、老人一名が死亡した事件、さらには警報器(サイレン)が故障しており、ダム放水の警報が鳴らなかつた昭和四八年八月一八日の北電雨竜ダムの放水事件などがある。

特に北電の場合、過去の事件で住民に甚大な被災を与えた実績があることから、規則に定められたものに該当する装置が本件パイプラインに設けられているからといつて、常に正常に作動する保証はない。

従つて、本件パイプラインが安全であるという保証にはならない。

(一八) 規則二八条の三二に、配管系に各種の漏えい検知装置及び漏えい検知口を設けなければならない旨定めている。これらの漏えい検知口装置等についても、住民の安全にとつて極めて重要な問題であるにもかかわらず、規則同条及びこれに関連した告示四六条の規定はごくわずかな漏えいについて規定していないので不十分である。

本件パイプラインについては長距離であること輸送量が大きいこと及び一日一四時間稼動とするとしており、定常運転時間が短かいことなどから漏えい検知の精度が悪い。また、微少漏えい検知装置と称するものを設置するとしているが、これは油導管に油が侵入し、かつ検知素子が正常に作動する場合以外は有効ではないので規則同条を補うには不十分である。

また規則同条及び告示四五条に、地下に埋設する配管には漏えい検知口を設けなければならない旨定めている。告示四五条一号ではさや管その他の構造物の中に設置するもの及び山林原野に設置するものにあつては保安上必要な箇所、その他の配管にあつては配管経路の約100mごとの箇所及び保安上必要な箇所に設けるとしている。本件パイプラインは、後者の配管に該当するので約100mごとの箇所及び保安上必要な箇所に検知口を設けなければならないにもかかわらず検知口が設けられていない。なお、微少漏えい検知素子は検知口ではない。

従つて、規則二八条の三二に規定する漏えい検知装置等に違反している。

(一九) 規則二八条の三三及び告示四七条に緊急しや断弁について定めているが、特に告示四七条一項の三号、四号及び二項の二号に、山等の勾配のある地域に配管を設置する場合及び鉄道又は道路の切通し部を横断して配管を設置する場合にあつては、保安上必要な箇所に緊急しや断弁を設けることを定めている。

本件パイプラインでは、発ステーシヨン及び着ステーシヨンなど九箇所に設置するとしているが、伊達市黄金一号線稀府七号線から東二三号線まで、西五号線から西一五号線までに至る区間の山等の勾配のある地域に緊急しや断弁が設置されていない。また、室蘭本線及び胆振線横断部にも設置されていない。更にペトトル川上流側及び千舞別川横断部付近にも設置されていないうえ、室蘭市崎守市街地付近にも設置されていない。

従つて規則二八条及び告示四七条の規定に違反している。

(二〇) 規則二八条の三四及び告示四九条に、配管内の危険物を除去するため、相隣接した二つの緊急しや断弁の区間の危険物を安全に水又は不燃性の気体に置換することができる措置を講じなければならないと定めている。

本件パイプラインの場合、緊急しや断弁前後にボール弁を設け、それにホースを接続し、石油を除去するとしているが、この方法では告示に定められている様な相隣接した二つの緊急しや断弁の区間の危険物を安全に水又は不燃性の気体に置換することはできない。

従つて、規則ならびに告示の規定に違反している。

(二一) 規則二八条の三四及び告示五〇条に感震装置及び強震計について定め、告示五〇条一号に感震装置及び強震計は配管の経路の25km以内の距離ごとの箇所及び保安上必要な箇所に設けることと定めている。

本件パイプラインでは、発、着ターミナルに設置するとしているが、他に保安上必要な箇所に相当する位置に設置していない。特に発、着ターミナルと地質が著しく異なる場所では地震の影響の受け方が異なるので、少なくとも感震装置及び強震計を設置するのが妥当であるが、北電は一台も設置していない。

従つて、規則二八条の三四及び告示五〇条の規定に違反している。

(二二) その他

規則二八条の三六、告示五一条の通報設備

規則二八条の三七、告示五七条の警報設備

規則二八条の三八、告示五三条の巡回監視車等

規則二八条の三九、告示五四条の予備動力源

規則二八条の四〇の保安用接地等

規則二八条の四四、告示五五条、五六条の標識等

について規則及び告示の規定は、住民の安全性の確保についてみれば十分でなく特に北電の場合、(一七)でも述べた通り起こりうるはずのない事故が多く、かつ、被害を生じていることからすれば、本件パイプラインの危険性は一向に除かれていないのである。

(二三) 以上、列記した通り、本件パイプラインは規則ならびに告示の規定に違反しており、従つて相手方が行なつた本件伊達パイプラインの許可処分は消防法一一条二項の規定に違反している。

これは、また、消防法一条の火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに火災又は地震等の災害に因る被害を軽減し、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とした本旨にも反する。

第五回復困難な損害

一 技術基準の限界

1 昭和五三年一月、伊豆大島近海地震により、静岡県田方郡天城湯ケ島町ほおずき沢堆積場のえん堤が崩壊し、シアン化合物を含んだ大量の鉱さいが流出する事故が起つた。この堆積場は「捨石鉱さい堆積場建設基準(昭和四八年改正)」が適用され、昭和四九年の全国総点検の際、新基準に一回でパス、「超安全」の折り紙が通産省によつてつけられたものであつた。

ここで、この「超安全」なえん堤が崩壊した原因は二つの場合が考えられる。

(一) 昭和四九年の調査は、鉱山監督官がえん堤を立ち入り調査したのではなく、会社側から提出された設計書や強度試験書を審査したにすぎない。したがつて基準通りの施工がされていたか、手抜き工事がなかつたかは確認されていない。つまり、えん堤が基準通りに作られていなかつた場合である。

(二) 一方、基準通りに作られていたが基準そのものに欠陥があつた場合である。

2 昭和四九年一二月、三菱石油水島製油所のタンク設置場所が軟弱な埋立地であつたところから不等沈下を起して破損し、大量の重油が瀬戸内海に流れ出す事故が起つた。

このタンクは当時の技術基準をみたしていたというがその後、基準の中に埋立地のような軟弱地盤にタンクを設置する際の考慮が全くはらわれていなかつた事実が判明した。基準さえみたしていれば安全とする考えがいかに危険であるか明らかである。

3 建築基準法でも改正のたびに、これさえ守れば大丈夫と言われてきたが大地震の起るたびことに予期せぬ原因で大きな被害が出て、そのたびに新しい基準が作られた歴史がある。

4 国鉄新幹線の安全性はA、T、C、やA、T、Sがきちんと働けば確保されるといわれている。これらの装置の中枢部分についてはコンピユータを主力とする自動化が行われているが、原因不明の信号がこれにまぎれこみ、たびたび列車事故が発生している。ひとつの事故要因を取り除くために設置した安全装置が他の事故を起す要因となることは新しい技術が導入された高度に性能の高いとされる機械や装置に多くみられる特徴である。

5 平常何事もないときはすべてうまくいくのだがふだん機械が自動的にやつていることを、故障や事故が起つたとき、急に人間がやらなければならなくなつたとき、とつさに対応できずに判断ミスや操作ミスが生ずる。昭和五二年八月の北電砥山ダムの放水事故も異常放流を知つてから操作係が流かい門の全閉に手間取り、四二万トンもの水を放流してしまつたものである。

6 1から5まで述べたことを本件パイプラインに当てはめれば、

(一) 消防法の技術基準は出来て間もない新しい基準(昭和四八年の石油パイプライン事業法の技術基準に準拠)で軟弱地盤についての工法等については欠除されており他に種々不備な点がある。そのうえ技術基準についての解説書が国によつて作られるべきであるにもかかわらず、未だに発行されていない。

(二) 相手方は、北電のデータのみを審査したにすぎず、その審査結果も誤りがある。

(三) 設計通りの施工が行われているかを相手方は確めていない。実際には設計通りに施工されていない。

右のように問題点があり、本件パイプラインは危険きわまりないものである。

二 伊達パイプラインの概要(地形)

1 伊達市は北東部に七〇〇メートルほどの山があり、南西部は噴火湾に面し、山すそから海へ向つてゆるやかな傾斜地が続き、地下水の豊富な川の多いところである。パイプラインの発ターミナルは海を埋立て作られたところにある(海抜0メートル)室蘭市陣屋町の日石製油所である。パイプラインは、そこから崎守町の市街地を通り、伊達市の山すそを通り、伊達市街地をぐるつと囲んだ形で着ターミナルの伊達発電所へ向う。途中高いところで海抜五〇メートルから八〇メートルぐらいのところを六カ所、大きな川を一三カ所、小さな川は一四カ所(これらの川のほとんどは改修工事がなされていない)と高低の変化はとても大きい。また地図でもわかるように平面的にもジグザグなコースであるから、全体のコースも非常に複雑なパイプラインである。(別添地図参照)

2 パイプラインの安全性はその支持地盤の強弱いかんにかかつている。大雨に弱く、崖くずれの起しやすい館山のシラス(実際に昭和五〇年に崖くずれが起つた)、館山下や石川町の深い砂質土、今でも地盤が移動するという竹原および清住の湿地帯などの軟弱地盤がルートの三分の一を占める。全体的に言えば不均等地盤をパイプラインが通ることになり、パイプの不等沈下が十分予測される地帯である。

3 昭和五二年八月に噴火した有珠山は未だにその活動が止まらず、毎日おびただしい地震を発生させている。とくに二の2で述べた土質のところでは他の場所よりもそのゆれは大きく感じられる。多発する地震によりパイプに徐々に力が加わり破損が生ずる。三恵病院(壮瞥長町)が火山活動による地殻変動のために少しずつつぶされた事実がそれを証明している。また河川敷やその周辺は、特に軟弱地盤や不均質地盤が多く、地震の影響をもろに受ける。

4 ルート約二五キロメートルのほとんどは地下水位の高いところであり(北海道電力株式会社のデータでさえ八〇%は地下水位は二メートル以内である)また湧水はルートに沿つて南黄金、北黄金、中稀府、清住、松ケ枝、西関内に存在する。本件パイプライン工事の掘削時に出水し、設計通りに施工ができないところが数多くあつた。従つて工事直後は見た目には何ともなくても時間の経過とともに地下水の影響が徐々に現われ、パイプが安定な状態を保てなくなる。

5 伊達市内のパイプラインの長さは約一九キロメートルであるが、そのうち一三キロメートルが市道である。このうち約四キロメートルは昔から田畑と同様に使われている農道であり、道幅は狭く、自動車も走つたまますれ違うことができなく、舗装もされず、側溝の完備されていないところもある(稀府二〇号線、西一号線、西六号線、館山一〇号線、館山上道は幅三間(五・四五メートル)~四間(七・二七メートル)の道路である)。また大水の時など道路がそのまま川になり、道路が欠損するようなところである(清住、竹原、南黄金、北黄金、中稀府)。このためパイプの真上を収穫時に農作物を満載したトラツクが走ることになり危険このうえない。

6 伊達市内のパイプラインルートには次のようなところがある。

(一) 水田地帯(五キロメートルを通過)

館山、松ケ枝、中稀府、北黄金

(二) 酪農地帯(三キロメートルを通過)

清住、南黄金

(三) 農業振興地域(六キロメートルを通過)

館山、中稀府、北稀府、弄月、清住、松ケ枝

(四) 浅井戸は伊達市内にいたるところに存在するがルート沿で日常用水(飲料、酪農、農業用水など)として使用していないのは南稀府、館山の一部だけである。

(五) 農家以外の人々の住んでいるところ

南稀府、北黄金、北稀府(国道沿)、竹原、末永、西関内、館山下

(六) 農業はいたるところ散在

三 パイプが破損したときの被害

1 破損の原因

(一) パイプの下の土砂が流されたときなどパイプの一部に力が加わり、パイプが不等沈下を起こす。このとき無理に力が加わつた部分が破損する。シラスや水の多い軟弱地盤ではこの例が多い。

(二) 地震が起き、断層、地割れ、地すべりなどが生じたり、パイプの軸方向曲げ応力が生じたとき、パイプラインは無力であり、新潟地震、サンフエルナンド地震、アラスカ地震など地震によつて地中に埋設された鋼管が破壊された例は数多い。

(三) 欧米におけるパイプライン事故の四〇%ほどは外部腐食が原因となつている。腐食の原因は複雑きわまりなく、FRV(ガラス繊維強化塩化ビニール)の被覆、パイプの塗覆装による絶縁だけではとても防げない。

(四) 停電や地震によるポンプの停止時とかバルブの急開閉時には常用圧力の数倍の内圧がパイプに加わり、風船が割れるような壊れ方をする。(いわゆるウオーター・ハンマー)

(五) 溶接が完全に行われていない場合に溶接部分に小さな穴があいたり、切断されたりする。

(六) 厳寒時、凍上凍結による地盤の移動がパイプを持ち上げたりしたとき、パイプは破壊される。

(七) 上下水道工事、ガス工事、道路補修、河川改修などの他工事によつてパイプが損傷を受けるケースが極めて多い。本件パイプライン工事で二度にわたり水道管を破壊したのは、この逆が起ることを意味する。

(八) 原因ひとつだけではパイプが破損しなくとも前記のいくつかが同時に起つた場合などは特に危険である。

2 普通なら工場や発電所の敷地内に設置される石油タンクが人間の生活空間内(技術基準では一・五メートル住宅から離れていればよい)に二五キロメートル並んでいるのと同じである。

3 二つの緊急しや断弁の間は長いところで七・七キロメートルもあるから、パイプの破損時にたとえ正常に作動したとしても約五五〇キロリットルぐらいの油が流出するのだから、これに火がつけば大爆発を起し、大火災が発生する。火のついた油が川に入れば川も燃える(昭和四七年七月、新潟県で帝国石油のパイプラインが破損して、農業用水路に油が流れ込み、五〇〇メートルにわたつて火災発生)。道路に流れ込めば道路を火が走る。油火災は大きくなれば止める手段は無く、燃えつきるまで黙つて見ているより仕方がない(昭和四〇年、室蘭港で起きたタンカー火災では一ケ月も燃え続けた)。

4 このとき、地表に流れ出た油は河川、道路などを通つて、短時間で、伊達市街地に到達する(大水の時の経験から推測できる)。住民は逃げ場もなく生命の安全が脅かされる。川に入つた油は海に入り込み、伊達海域、有珠海域をよごす。また地下水に入りこめば地下水汚染を生じる。(この件については後述する)

5 油が大量に流出しないごくわずかの場合でもその影響は重大である。

(一) 石油パイプライン事業法の技術基準の作成に当つて、昭和四八年三月、「地下埋設管から一・五メートル離れていれば安全」なる公開実験が通産省など四省合同で主催された。地下埋設管から一・五メートル離れたところに建てられたプレハブ住宅が、微小漏油のために、一気に燃えつくしたという結果をもたらした。にもかかわらず「一・五メートル離れていれば安全」なる基準ができたのだから驚きである。微小漏油でも生命、財産に被害を与えるのだ。

(二) 油が地下水を汚染した場合、沿線では飲料水や農業用水として使用できなくなる。さらに土壤汚染が生じ、田畑も使用できなくなり、元の状態にはほとんど戻らぬほどの被害を与える。

(三) パイプラインの気門別川横断地点の下流側五〇〇メートル~一、四〇〇メートルの間に伊達市の上水道用の市営掘抜井戸が四カ所ある。油が地下に浸透し、これに混入すれば市民の日常生活に重大な影響を与える。

6 爆発、火災が起ればパイプライン沿線はもとより、海側はすべての住民に被害が及ぶし、風が海から陸へ吹いていれば、有毒ガスを含んだ煙が山側の住民にも広く被害を及ぼす。地下水の汚染もいうに及ばず、また油が川を経由して海に入れば伊達および有珠の漁民、広くは噴火湾全域の漁民にも被害を与える。

7 河川の下を横断するパイプラインは洗掘により露出し破損する。このため下流一帯は被害を受ける。

四 パイプラインが存在することによる被害

1 地下水脈の切断や水流の方向を変えることにより、地下水位が低下したり、枯渇したりすれば市民の日常生活や農業を営むうえで重大な障害をおよぼす。逆に地下水が地上にあふれ出たときには土地が湿地化してしまう恐れがある。

2 本件パイプラインは常時六〇度Cに加温され、異常時にはそれ以上に加温されるので周囲の土中温度を上げ、農作物などに被害を与える。

3 農家には良いことは一つもなく、作業意欲は減退し、生産が低下する。

4 市民はいつ爆発するかとの不安感からイライラし、眠れないなどから健康上の被害を受ける。

五 発電所の操業による被害

1 伊達地方は、北海道の西南部噴火湾に面し、支笏洞爺国立公園を含み、冬期の積雪も少なく、温暖で「北海道の湘南」、「緑と太陽のまち」といわれている。気象条件に恵まれ、昼夜の温度差が少なく、良質な土壤と相まつて農作物の作付種類も多く、野菜の特産地である(北海道における早出し野菜の唯一の供給地である)。

漁業ではとくに有珠近海の底質は岩石で形成され、幾多の島に恵まれ、海藻の種類が豊富で繁茂は他に類を見ない。コンブ、ワカメ、ノリ、ホタテ、ウニ、アワビ等の養殖が盛んで、噴火湾地域は、北方栽培漁業の基地に発展している。

伊達市には、ぜんそく児童のための、有珠優健学園、精神薄弱者総合援護施設である道立太陽の園、伊達赤十字病院等があり、北海道の保養地として、ぜんそく等に苦しむ人々が保養療養に来ている。このような自然環境に恵まれた伊達地方を大規模な火力発電所による公害で汚染することは許されない。

2 電源の開発は、他にとりうる手段がある点で代替性があるが、生命、健康はもちろん、自然環境も一度破壊されると、とり返しがつかない。自然破壊が進んでいる我国では、良い自然を残すことこそ公益に合致する。

本件パイプラインは伊達火力発電所の建設工事の一環であり、これと一体をなす関係にある。

3 パイプラインができあがり、発電所の操業が始まれば、排煙(SO、NO、ばいじんなど)による呼吸器疾患を起す。また農作物、果樹などにも悪影響を与え、不良品の増加、収穫の減少をもたらし、生産者は生活できなくなる。とくに逆転層などが生じると排煙による被害は大きくなる。

4 温排水は毎秒二二トン排出するといわれており(申立人らは、もつと多量だと推測しているが)、これによりホタテ、ウニ、アワビ、コンブ、ワカメ、ノリなどに甚大な影響をおよぼし、漁民の生活を破壊する。

六 申立人ら各自の予測被害

申立人ら各自の住居等(別添申立人住居等所在図参照)から本件パイプラインまでの最短距離および申立人ら各自に予測される被害の項目はおおむね別表のとおりである。

第六執行停止の必要性

北電は昭和五一年六月、本件パイプライン埋設工事に着手し、現在まで約五割の工事を終え、昭和五三年八月いつぱいで工事を完了し、同年一一月には発電所(一号機三五万キロワツト)の運転開始を予定している。

申立人らは、昭和五二年九月六日、本件パイプライン設置許可処分の取消を求める本訴を提起し、係争中であるが、北電(本訴参加人)は、これを無視して工事を急いでおり、本件パイプラインが完成し、発電所の操業が開始されれば、前述のとおり申立人らの生命、身体、財産および自然環境に重大な損害が発生することが必然であるから、これを避けるため緊急に本申立に及ぶ。

別添図、別添地図、別表<省略>

意見書

意見の趣旨

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

との決定を求める。

意見の理由

第一本件移送取扱所設置の許可処分に至る経緯

一 本件移送取扱所設置の許可申請

1 北海道電力株式会社(以下「北電」という。)は、伊達発電所の燃料油(重油等)の輸送方法について室蘭市陣屋町から伊達市長和町所在の同発電所までの間にパイプラインを敷設して送油することを昭和四六年ごろから計画し、同計画を実施するため、設置ルートの選定に必要な地質等の調査を行い、パイプライン敷設に関する社会的及び自然的立地条件を十分考慮した上で具体的な設置ルート等を決定して、昭和五〇年六月、これを公表した。

右公表の内容は、室蘭市陣屋町を起点とし、同崎守、伊達市北黄金、同稀府、同清住を経由して同長和町所在の伊達発電所を終点とする約二五・七キロメートルの間にパイプラインを敷設し、同発電所の燃料油を輸送するとするものであつた。

2 北海道知事(以下「知事」という。)は、北電に対し、右パイプラインに係る消防法(昭和二三年法律第一八六号)一一条一項に規定する移送取扱所(以下「本件移送取扱所」という。)の設置の許可申請を行うに当つては、同パイプラインの敷設について地権者の了解を得るとともに地元関係者の理解を深めるよう指導した。

3 北電は、右指導に応じ、地権者及び地元関係者に対し本件移送取扱所の設置計画の内容を説明して理解と協力を得るよう努めた上、昭和五〇年九月八日、知事に対し、消防法一一条一項の規定により、本件移送取扱所の設置の許可申請を行つた。

二 本件移送取扱所の設置の許可

1 本件移送取扱所の設置の許可申請を受理した知事は、移送取扱所の設置について消防法が定める移送取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準(消防法一〇条四項、危険物の規制に関する政令(昭和三四年政令第三〇六号)一八条の二、危険物の規制に関する規則(昭和三四年総理府令第五五号)二八条の二ないし二八条の五三、危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示(昭和四九年自治省告示第九九号)五条ないし六八条。以下「技術上の基準」という。)は高度な専門、技術的事項であることから、本件移送取扱所の設置に係る同法一一条一項の許可の可否を判断するに当たつて適正を期すべく、昭和五〇年一〇月、金属材料、溶接、耐震、地質等についてそれぞれの学識経験者である室蘭工業大学名誉教授金森祥一ら一一名を技術専門員に委嘱し、本件移送取扱所の設置の内容が技術上の基準に適合するものであるか否かについての意見等を求めた。

2 知事の委嘱を受けた技術専門員は、五箇月にわたり慎重に審査、検討した上、昭和五一年三月、知事に対し、「伊達火力発電所の移送取扱所設置許可申請に関する技術検討報告書」(以下「報告書」という。)をもつて、本件移送取扱所の設置の内容は技術上の基準をいずれも十分満足しており、従つて、安全性の確保について現段階で考えられる技術的配慮が十分なされているものと判断される等の報告を行つた。

3 一方、知事は、本件移送取扱所の設置に伴つて北電が行う環境保全対策について必要な指導を数次にわたつて行い、北電は、同持導に従つて本件移送取扱所の設置に伴う環境保全対策を取りまとめ、昭和五一年五月、知事に対して「伊達発電所パイプライン設置に係る環境保全対策」(以下「環境保全対策」という。)として報告した。

4 知事は、本件移送取扱所の設置について地元の理解をより深めるとの見地から、昭和五一年五月、室蘭市及び伊達市に対し、それぞれ、報告書の内容、環境保全対策の内容、本件移送取扱所の設置の許可申請に対する審査状況等について説明を行つた。

5 更に、知事は、本件移送取扱所の設置について地元住民の理解を深める不安を解消するため、昭和五一年五月から七月にかけて三回にわたり、室蘭市崎守町及び同石川町の住民に対し、報告書の内容、環境保全対策の内容等についてそれぞれ説明を行つた。

また、知事は、伊達市の住民に対しても右同様の説明を行うべく昭和五一年六月に説明会を開催したが、同説明会は伊達発電所の建設に反対する一部住民らの実力阻止にあつて中止するのやむなきに至り、その後も引き続き種々努力したにもかかわらず説明会を開催することは困難であつたことから、同年八月、同説明会に代えて、報告書の内容及び環境保全対策の内容を説明した「伊達パイプラインの安全対策と環境保全」と題するパンフレツトを同市の全世帯に配付した。

6 一方、知事は、報告書に付された提言、消防庁との協議結果を勘案し、行政上の配慮から、昭和五一年八月、北電に対し、本件移送取扱所の設置に当つて万全を期するため必要な措置を講ずるよう要請し、北電は、鋼管外装管の採用箇所を追加する等同要請事項のすべてについて従うこととした。

7 知事は、昭和五一年八月、本件移送取扱所の設置に係る関係市町村長である室蘭市長及び伊達市長に対し、消防法一一条四項の意見を求め、これに対し、両市長は、同月、それぞれ知事に対し本件移送取扱所の設置に係る安全対策等についての要望を意見として申し出た。

8 知事は、右両市長の意見の趣旨をも尊重し、北電との間において本件移送取扱所の設置に関して安全の確保と環境の保全を図るための協定を締結することとし、北電においてもその旨を確約した。

なお、右確約に基づき、知事は、昭和五一年一〇月二五日、北電との間において「伊達発電所に係る燃料輸送パイプラインに関する協定書及び同協定細目」(以下「防災協定」という。)を締結した。

9 知事は、以上のごとき経過を踏まえ、本件移送取扱所の設置の許可申請について慎重に審査、検討した結果、本件移送取扱所は消防法一一条二項の要件を満たしているものと判断し、昭和五一年八月三一日、本件移送取扱所の設置の許可処分(以下「本件処分」という。)を行つた。

10 なお、本件移送取扱所の設置計画の内容はその後所定の手続を経て一部変更されており、変更後における計画の概要は次のとおりである。

(一) 名称、設置経路等

名称   伊達発電所移送取扱所

送油油種 重油及び原油

設置場所

起点  室蘭市陣屋町一七三番地

終点  伊達市長和町一六九の一番地伊達発電所

経油地  室蘭市陣屋町―同崎守―伊達市北黄金―同稀府―同清住―同長和町

設置経路内訳

道路下          一七、九四八メートル

線路敷下             七三メートル

河川下             六四九メートル

地上(発・着ターミナル内) 一、一三七メートル

(河川横断)        四三三メートル

専用隧道内(崎守)       六六三メートル

(館山)       六二六メートル

民有地           二、〇九四メートル

その他           二、〇三一メートル

合計            二五、六五四メートル

送油管

延長           二五、六五四メートル

本管外径        三一八・五ミリメートル

条数            一条

(二) 送油能力等

ポンプの種類等

種類、型式     横型多段渦巻式

全揚程(圧送圧力) 一平方センチメートル当たり二七・五キログラム

吐出量(送油能力) 一時間当たり二八〇キロリツトル(一五度C)

基数        二台(内一台予備)

送油時間      一日当たり一四時間

第二本件執行停止の申立ては、申立人らが本案について原告適格を有しないから不適法である。

申立人らの本件執行停止の申立ては、以下に述べるとおり、申立人適格及び申立ての利益を欠くから、不適法なものとして却下されるべきである。

一 消防法一一条一項に基づく許可の性質について

消防法は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減し、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的として制定されたものである(一条)。

しかして、消防法は、右目的を達成するため、発火性又は引火性のある物品を危険物として定め(二条七項)、危険物の貯蔵及び取扱いを一般的に禁止し(一〇条一項)、危険物の取扱所等を設置しようとする者に対して許可を得ることを要求し(一一条一項)、許可権者は、当該許可申請があつた場合において、取扱所等の位置、構造及び設備が一〇条四項の技術上の基準に適合し、かつ、当該取扱所等においてする危険物の貯蔵又は取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないものであるときは許可を与えなければならない(一一条二項)と定めている。

右のような消防法一一条一項の許可は、公共の秩序を維持するという警察目的のための一般的禁止を特定の場合に解除する講学上の許可に該当し、法定の要件を充足した場合にはこれを許可しなければならないいわゆる覊束裁量行為に該当すると解される(消防庁危険物規制課等編・新訂消防法解説一三七頁以下参照)

二 消防法一一条一項の保護法益について

処分の取消しの訴えは、当該処分につき法律上の利益を有する者に限り提起することができる(行政事件訴訟法九条)ところ、同「法律上の利益」の有無は、当該処分の判断基準としての根拠法規が処分の取消しを求める者の個人的な利益を保護対象としているか否か、当該処分により現実にその利益がき損されたか否かにより決せられるべきものである。

これを本件についてみるに、消防法が、危険物の取扱所等の設置につき許可制を採り、許可につき一定の制約を設けている趣旨は、火災等による危険防止という公共の目的にあることは明らかである。

問題は、消防法が危険物の取扱所等の設置場所付近住民の各個人の生命、身体及び財産を個別的に保護する趣旨を含むか否かである。

消防法一一条一項四号の規定による許可については、関係都道府県知事又は関係市町村長は意見を申し出ることができる(同法一一条三項、四項)が、同法一一条一項の許可について関係住民の意見を聴取すべき機会を定めた規定は存せず、同法に基づく危険物の規制に関する政令にも関係住民の個別的具体的利益について特段の定めがなく、同法一一条一項の許可申請書にも関係住民の利益に関する記載を特に要求していない(同政令六条、七条)。

また、消防法は、一一条一項の規定に違反した者については四二条一項一号の二において罰則を定めるとともに、一一条五項により取扱所等を設置したときは許可権者の完成検査を受け一〇条四項の技術上の基準に適合していると認められた後でなければ使用できないと定め、一一条五項の規定に違反した者については四二条一項二号において罰則を定めるなどして、許可権者の検査と罰則規定を通じて許可の実効を確保している。

このような消防法の規定にかんがみれば、同法の目的は火災等による災害防止という公共の安全を図ることにあり、その結果、関係住民の利益が保護されることになるが、同住民の利益は、公益保護の結果として生ずる事実上の利益ないしいわゆる反射的利益にとどまるもの、換言すれば、消防法は、本来私人等権利主体の個人的な利益を保護することを目的とするものではないと解すべきである(反射的利益につき、最高裁昭和五三年三月一四日判決・判例時報八八〇号三頁、東京地裁昭和五二年一〇月五日判決・判例時報八七四号三五頁、福井地裁昭和四九年一二月二〇日判決・訟務月報二一巻三号六四一頁等参照)。

以上の次第であるから、申立人らは本件処分についてこれを争うべき原告適格を欠き、同人らが提起している本案(御庁昭和五二年(行ウ)第一五号伊達発電所移送取扱所設置許可処分取消請求事件)は不適法というべく、従つて、これを前提とする本件執行停止の申立ても不適法というほかはない。

三 消防法が個人的利益を保障すると解した場合について

消防法一一条一項の許可が、発火性又は引火性のある危険物の貯蔵ないし取扱いから生ずる火災又は爆発による被害を防止する目的をもつことは明らかである。

したがつて、仮に、消防法が個人的利益をも右災害から保護する趣旨をもつと解するとしても、第三者たる個人が同条項の許可について争うためには、火災又は爆発による災害によつて個人の利益が侵害される具体的危険性の存在が立証されなければならない。換言すれば、消防法一一条一項の許可権者は、当該取扱所においてする危険物の取扱いが火災又は爆発による災害発生の防止に支障を及ぼすおそれがないと認められるときは同条項の許可を義務づけられるのであつて、当該取扱所等の設置により火災又は爆発によつて生ずる被害以外の被害が生ずるおそれがあるからといつて消防法上の許可を与えないことは許されないのであるから、第三者たる個人が消防法上の保護法益以外の利益が侵害されることを理由に当該取扱所等の設置の許可処分の取消しを求めることもできないといわなければならない。そして、消防法の保護法益以外の利益侵害については、当該利益を保護する行政法規が存在するときは当該行政法規の認める争訟手続により、また、当該利益が私法上の保護に値するものであれば私法上の権利として民事訴訟において、それぞれ保護されるべき筋合のものである(いわゆる警察権分散の原理につき原田尚彦「営業許可申請の拒否事由」演習行政法二一六頁以下参照。なお、東京高裁昭和四八年九月一四日判決・行集二四巻八・九号九五〇頁、水戸地裁昭和四七年八月三日判決・行集二三巻八・九号六〇五頁、千葉地裁昭和四六年二月二八日決定・行集二二巻一・二号一四六頁参照)。

そこで、これを本件についてみるに、申立人らが主張する被害のうち本件移送取扱所の送油管の破損によつて生じる火災又は爆発による被害を除く被害は、いずれも消防法の目的とする保護法益とは到底認め得ないものであるから、本件処分の取消しを求める法律上の根拠とはなり得ないものである。

ところで、申立人らのうち、千石正志の本案の訴えは、その主張自体右火災又は爆発の危険をいうものでないから訴えの利益を欠き不適法なものである。

次に、申立人千石正志を除いた一〇名の申立人らのうち、申立人加藤勝を除く八名の申立人らは、いずれも住居ないし勤務先が本件移送取扱所から三〇〇メートル以上離れているというのであるから、本件移送取扱所の送油管の破損により生じる火災又は爆発によつて同人らの生命、財産に具体的危険が及ぶおそれはないといえるし、また、申立人千石正志を除く申立人らは、本件移送取扱所の送油管の破損により流出した油が河川や道路を流れ出て生ずる火災又は爆発の危険を主張するが、そのような事態はいわば仮想に基づく観念的な危険というにすぎないのであり、かかる危険をもつて訴えの利益を肯定することはできない。

更に、申立人加藤勝はその住居及びその所有する農用地が本件移送取扱所に接すると主張しているが、後記第三に詳述するとおり、そもそも、本件移送取扱所の送油管が破損すること自体あり得ないものであり、これによる被害も起こり得ないのであるから同申立人らの主張する被害の発生をもつて本案の訴えの利益を認める理由はない。

以上のとおり、申立人らは本件処分の取消しを求める本案において訴えの利益を有しないから、同本案を前提とする本件執行停止の申立ても不適法である。

第三本件執行停止の申立ては、回復困難な損害及びこれを避けるための緊急の必要性がない。

申立人らは、本件処分によつて同人らに回復困難な損害が発生するとるる主張するが、同人らが主張する損害とは、これを要するに、本件移送取扱所の送油管(以下「送油管」という。)が破損したときの被害、本件移送取扱所が存在することによる被害及び伊達発電所の操業による被害の三点にある。

しかしながら、以下に述べるとおり、本件処分によつて、申立人らに回復困難な損害が発生するとは到底認められないこと明らかである。

一 送油管の破損に起因する被害に関する申立人らの主張について

申立人らは、送油管の破損に起因する被害として、漏油の爆発、火災による被害、生活用水及び農業用水の汚染による被害、土壌汚染による農業被害、海洋汚染による漁業被害が発生すると主張する。

しかしながら、本件移送取扱所は、以下詳述するとおり、必要にして十分な強度及び構造を有する送油管を採用し、各種の保安設備等を設け、かつ、厳重な施工、監理の下に設置された上、厳格な検査を受け、更に、適切な保守、運用がなされるものであるから、十分な安全性を有するものであり、従つて、申立人らが主張するごとき送油管の破損に起因する損害など起こり得ないこと明らかである。

1 送油管の本管として使用する鋼管の強度、送油管の構造及び設置方法並びに本件移送取扱所の保安設備等について

本件移送取扱所は、強じんな鋼管を本管として採用する等十分な強度を有するよう設計された構造の送油管を適切な方法をもつて設置するとともに、必要な保安設備等を設けるものであるから、その構造、設備において十分な安全性を有するものである。

(一) 送油管の本管として使用する鋼管の強度

送油管の本管として使用する鋼管は、世界的に実績のあるAPI(アメリカ石油協会)規格五LX(ハイテストラインパイプ)の強じんなものであつて、その強度についてみても、鋼管に常時作用する主荷重である内圧、土圧、自動車荷重、温度変化の影響等、一時的に作用する従荷重である地震の影響、他工事による影響等によつて生ずる外力に対し、十分耐え得る強度を有するものである。

ちなみに、送油管の本管として使用する鋼管は、二〇トン級の大型車両の通行による荷重等についてみても十分耐え得る強度を有するよう設計されており、また、地震による外力に対してみても、伊達地方に過去最も大きな影響をもたらした明治四三年の有珠山地震と同程度の規模の地震に対しても十分耐え得る強度を有するものである。

(二) 送油管の構造

送油管の構造は、外径三一八・五ミリメートル、肉厚(直管部)八・七四ミリメートル(曲管部)九・五ミリメートルの鋼管を本管として用い、その表面を防錆塗料で塗装し、外周を水を通しにくく、かつ、断熱効果のある硬質発泡ポリウレタンフオームで覆い、更にその外側を防水性、耐久性、耐腐食性に優れたFRV(ガラス繊維強化塩化ビニール)で外装したものである。

また、送油管は、設置する場所の地形、地質等の状況によつては、FRVに代えて本管と同等の強度を有する鋼管をもつて外装する二重の配管構造を採用しているものである。

なお、道路下を横断する等の特殊な場所においては、さや管内に送油管を設置することとしている。

(三) 送油管の設置方法

(1) 本管の接合に当たつては厳重な溶接施工要領等に基づき有資格者が被覆金属アーク溶接により行い、また、溶接部分については、すべて放射線透過試験等により検査し、溶接が確実に行われていることを現認することとしている。

なお、送油管のすべてにわたり最大常用圧力の一・五倍以上の圧力で水による耐圧試験を行うこととしている。

(2) 送油管の設置方法は次のとおりである。

ア 一般埋設部(道路下、民有地、その他)

一般埋設部の送油管は、開削工法により用地境界から一・五メートル以上離れた地表からおおむね一・二メートルないし一・八メートルの深さの位置に埋設する。

イ 地上配管部(発・着ターミナル内)

地上配管部の送油管は、地上にコンクリート架台を設けこの上に設置する。

ウ 道路横断部

道路横断部の送油管は、開削工法又は推進工法により地下に敷設されたさや管内に設置する。

エ 線路横断部

線路横断部の送油管は、推進工法により地下に敷設されたさや管内に設置する。

オ 河川横断部

河川横断部の送油管は、専用橋による場合にあつては橋りよう上に取り付けたさや管内に設置し、伏越による場合にあつては開削工法又は推進工法により約二メートル以上の深さの位置に埋設されたさや管内に設置する。

カ トンネル部(専用隧道内)

崎守トンネル内の送油管は、一般埋設部と同様の方法により設置する。

館山トンネル内の送油管は、地上配管部と同様の方法により設置する。

(四) 本件移送取扱所の保安設備等

本件移送取扱所の保安設備等として、運転状態監視装置、安全制御装置、圧力安全装置、漏えい検知装置、緊急しや断弁、感震装置及び強震計、電気防食装置、標識等を設置する。

(1) 運転状態監視装置

ア 送油管系の運転状態を監視する装置

イ 送油管系の圧力又は流量の異常な変動等の異常な事態が発生した場合の警報装置

(2) 安全制御装置

ア 圧力安全装置、漏えい検知装置、緊急しや断弁、感震装置及びその他の保安装置の制御回路が正常であることが確認されなければ送油ポンプが作動しない装置

イ 保安上異常な事態が発生した場合、送油ポンプ、緊急しや断弁等が自動又は手動により連動して速やかに停止又は閉鎖する装置

(3) 圧力安全装置

ア 異常圧力放出装置

本管内の圧力が最大常用圧力の一・一倍を超えないように制御する装置

イ 圧力制御装置

本管内の圧力が最大常用圧力を超えないように制御する装置

(4) 漏えい検知装置

ア 流量比較装置

本管系(本管並びにその本管と一体となつているポンプ、弁及びこれらの附属設備の総合体をいう。以下同じ。)内の危険物の送油流量を測定することにより自動的に漏えいを検知する装置

イ 圧力パターン検知装置

本管系内の圧力を測定することにより自動的に漏えいを検知する装置

ウ 非加温流体静圧測定装置

本管系内の圧力を一定に静止させ、当該圧力を測定することにより漏えいを検知する装置

エ 加温流体漏えい検知装置

移送取扱所の運転停止中に重油等の温度変化による体積変化を測定し漏えいを検知する装置

オ 微少漏油検知装置

アないしエの各検知装置で検知できない微少な漏えいを油の電気抵抗を利用して検知する装置

カ ガス検知装置

専用隧道内等において可燃性ガスを検知する装置

キ レベル検知装置

専用橋の漏えい拡散防止ピツト等内の液面レベルの変動により漏えいを検知する装置

(5) 緊急しや断弁

地震等の異常な事態が発生した場合、直ちに本管内の送油をしや断する装置

(6) 感震装置及び強震計

ア 感震装置

地震が発生した場合、その加速度を検知し送油ポンプ等を連動させる装置

イ 強震計

地震が発生した場合、その加速度を記録する装置

(7) 電気防食装置

送油管等の腐食を防止する装置

(8) 標識

送油管の埋設位置を表示する位置標識、注意を喚起するための注意標識、他工事等による送油管の損傷を防止するための注意表示

2 本件移送取扱所の設置工事について

知事は、本件移送取扱所の設置工事に係る関係法令及び防災協定に基づく検査、環境監視、その他監督指導を的確に行うため定めた「移送取扱所工事施工検査等実施要領」に従い、所部の職員をして、本件移送取扱所の設置工事の状況を調査させ、同工事がその設置計画の内容どおり実施されていることを確認している。

また、知事は、本件移送取扱所の設置工事に関する調査業務を申立外北海道開発コンサルタント株式会社に委託し、本件移送取扱所の設置工事について、溶接に関する事項、掘削・埋めもどしに関する事項、送油管の材質等に関する事項、河川及び道路横断部等の工事に関する事項等を含む本件移送取扱所の設置工事の全般にわたる事項を専門的な見地から調査させ、同会社から報告を受け、北電が設置計画の内容どおり本件移送取扱所の設置工事を適切に実施していることを確認している。

したがつて、本件移送取扱所は、十分な安全性を有するものとして設置されること明らかである。

3 本件移送取扱所の完成検査について

知事は、北電から本件移送取扱所の完成検査の申請を受けたときには、消防法一一条五項の規定に基づき、本管系内の耐圧試験、保安設備等の作動試験等を行い、本件移送取扱所がその設置計画の内容どおり完成していることを確認した上、その使用を認めるものである。

したがつて、本件移送取扱所は、十分な安全性を有するものとして完成し、使用されること明らかである。

4 本件移送取扱所の保守、運用について

北電は、本件移送取扱所の保守、運用に関し、保守のための巡視及び点検、取扱い作業の基準、補修等の方法、保安監督体制等を内容とする消防法一四条の二に規定する予防規程を定め、昭和五三年四月、知事の認可を受け、これを確実に遵守することとしている。

また、北電は、消防法一四条の三の規定に基づき、本件移送取扱所の保安に関する検査を毎年受けなければならないこととされている。

したがつて、本件移送取扱所は、運用に当たつても安全が確保されるものである。

二 本件移送取扱所が存在することによる被害に関する申立人らの主張について

申立人らは、本件移送取扱所が存在することに起因して、地下水が変化することによる生活用水、農用地への被害、土中温度が上昇することによる農作物への被害が発生すると主張する。

しかしながら、右申立人らの主張する被害はいずれも送油管の設置に関するものであるところ、以下に述べるとおり、送油管は、地下水及び農作物に影響を及ぼすことのない方法、位置、構造の下に設置されるものであり、従つて、申立人ら主張のごとき本件移送取扱所の存在による被害など発生しないこと明らかである。

1 送油管の設置による地下水の影響について

送油管の設置工事は、約一一〇メートルを一施工区間として、深さ二ないし二・九メートル程度、幅一・二ないし一・四メートル程度に掘削し、外径約四〇センチメートルの送油管を所定の位置に埋設する比較的小規模でかつ短期間のうちに行われるものであり、埋めもどしに当たつては送油管の周囲を置換砂及び掘削土を用いてその周辺の地盤と同程度に十分締め固めることとしているものであるから、申立人らが主張するごとく生活用水及び農業用水の利用に重大な支障が生じ、農用地を湿地化するほど地下水に変化を及ぼすことなどあり得ない。

2 送油管による土中温度の上昇が農作物に及ぼす影響について

重油等は、粘性度が高く常温では凝固するものであるから、送油時には発ターミナルにおいて最高摂氏六〇度に加温されること、送油停止時にはセクト管を用いて最高摂氏六〇度に保持されることから、送油時、送油停止時のいずれにおいても送油管の本管内の温度はほぼ最高摂氏六〇度である。

しかも、送油管は、それ自体平均五〇ミリメートル程度の硬質発泡ポリウレタンフオームによつて本管の周囲を覆い、熱放散を抑制する構造を有しているものである。

更に、実験結果によれば、地表から一・五メートルの深さに設置された送油管の本管に摂氏約六〇度に加温した水を循環させた場合において、送油管から水平距離約一・三メートル、地表から約四〇センチメートルの位置の温度上昇はわずか摂氏〇・五度程度であるところ、送油管は、農地から一・五メートル離れた地表からおおむね一・五メートルの深さの位置に設置されるものである。

したがつて、送油管の存在により農作物に被害が及ぶほどに周辺農地の土中温度が影響を受けることなどあり得ようはずがない。

三 伊達発電所の操業による被害に関する申立人らの主張について

申立人らは、本件処分による被害として伊達発電所の操業に起因する大気汚染及び海洋汚染が発生すると主張する。

しかしながら、本件処分は消防法一一条一項の規定に基づく移送取扱所の設置の許可であり、伊達発電所の操業についてこれを認めたものではないのであるから、申立人ら主張のごとき同発電所の操業による大気汚染、海洋汚染をもつて本件処分による被害とすること自体全く失当であるというのほかはない(御庁昭和四九年一月一四日決定・判例時報七二七号七頁以下参照)。

四 本件処分によつて申立人らに回復困難な損害が発生しないことについて

以上詳述したとおり本件移送取扱所はその構造、設備、運用のいずれの面においても十分な安全性を有するものであり、本件移送取扱所の設置による影響も極僅少なものであるから、本件移送取扱所の設置によつて申立人ら主張のごとき被害は発生しない。

また、本件移送取扱所の設置によつて、仮に申立人らに何らかの被害が発生したとしても、その被害は軽微なものであり、しかもその場合においては、北海道と北電との間における前記防災協定等により北電は損害を賠償することとしている。

してみれば、仮に申立人らに被害が発生しそれが本件処分によるものとしても、これら損害はすべて金銭賠償による補てんが十分可能なものであるから、本件処分によつて同人らに回復困難な損害が発生するとは到底認められない。

したがつて、本件執行停止の申立ては、申立人らに回復困難な損害を避けるための緊急の必要性がないこと明らかであり、却下されるべきものである。

第四本件執行停止の申立ては本案について理由のないこと明らかである。

知事は、前示第一記載のとおり、本件移送取扱所の位置、構造及び設備が消防法一〇条四項の技術上の基準に適合するか否かについて技術専門員の意見等を求め、同技術専門員から、本件移送取扱所の位置、構造及び設備は技術上の基準をいずれも十分に満足しており、安全性の確保について現段階で考えられる技術的配慮が十分なされているとの報告を得た上、本件移送取扱所の位置、構造及び設備が技術上の基準に適合し、かつ、本件移送取扱所における重油等の取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生に支障を及ぼすおそれがないと認めて本件処分を行つたものであるから、その判断に誤りはない。

しかして、本件処分に至るまでの間において知事のなした手続には法律上何らの瑕疵も存しない。

したがつて、本件処分は適法なものであり、本件執行停止の申立ては本案について理由がないといわなければならない。

以下、申立人ら主張の本件処分の具体的瑕疵について反論する。

一 憲法三一条の適正手続の保障に違反しているとの主張について

申立人らは、本件移送取扱所のごとく環境に重大な影響を及ぼし、かつ、重大な災害を発生させるおそれのある危険な工作物の設置を許可するに際しては、憲法三一条の適正手続の要請上、許可権者において地元住民に対し告知、聴聞の機会を与え、不安を解消すべき法律上の義務を負うものであるから、これら手続がなされていない本件処分は違法である旨主張する。

しかしながら、そもそも、憲法三一条の適正手続の保障については、刑事手続にのみ適用のある条項か否か判例学説上も争いがあるが、仮に行政手続について同条の趣旨を類推適用すべきものとしても、移送取扱所の設置の許可を行うに当たり、いかなる範囲の者に、いかなる方法で、いかなる程度の告知、聴聞の機会を与えるかは優れて立法政策の問題である。

消防法は、移送取扱所の設置の許可についてその一一条三項及び四項において関係都道府県知事又は市町村長は許可権者に対してそれぞれ意見を申し出ることができる旨規定することにより地元住民の意見反映の機会を保障しているものであるところ、本件移送取扱所の設置の許可については関係市町村長たる室蘭市長及び伊達市長から意見の申出がなされ、知事においても本件処分をなすに当たり十分にこれを尊重しているのである。

しかして、消防法は、移送取扱所の設置の許可について右以外に第三者の意見等に関する規定を有せず、また、その他法条においても移送取扱所の設置の許可に当たり地元住民個々に対し告知、聴聞を行うべき旨の規定は存しない。

したがつて、申立人らの主張は、将来についての立法論をいうのであれば格別、本件処分の取消しを求める許可手続の瑕疵の理由としては失当であり理由のないものというのほかはない。

なお、念のために付言すれば、知事は、本件処分を行うに先立ち、室蘭市崎守町及び同石川町の住民に対して報告書の内容、環境保全対策の内容等について説明を行い、伊達市の住民に対しては報告書の内容及び環境保全対策の内容を説明したパンフレツトを全戸に配付する等、本件移送取扱所の設置について地元住民の理解を深め不安を解消する方途を講じているものである。

二 本件移送取扱所の設置による危険性の主張について

申立人らは、移送取扱所は必然的にその設置ルート周辺の地域に大災害をもたらすものであるとの独自の前提に立脚し、伊達地方の自然的、社会的条件からして、本件移送取扱所の設置により、爆発、火災並びに地下水及び農用地の油汚染が発生し、同人らの生命、財産が脅かされるとして、本件移送取扱所の設置による危険性を主張する。

しかしながら、本件移送取扱所は、必要にして十分な強度及び構造を有する送油管を採用し、各種の保安設備等を設け、かつ、厳重な施工、管理の下に設置された上、厳格な完成検査を受け、更に、適切な保守、運用がなされるものであるから、十分な安全性を有するものであること第三に詳述したとおりであり、従つて、本件移送取扱所の設置により、申立人らに主張のごとき危険を及ぼすことなど到底あり得ようはずもない。

申立人らは本件移送取扱所の設置による危険性についてるる主張するが、同主張は、最も重大な危険の発生が予想される大量の漏油につながる送油管の破損についてみても、その原因とする地震、地盤沈下等による異常な加圧がどの程度に至れば送油管が破損して重油等が大量に流出するのか、また、かかる異常な加圧の原因たる地震、地盤沈下がいつどこでいかなる頻度のもとに発生するのかについて何ら具体的にされていないことからも明らかなとおり、仮想に基づく観念的、漠然とした万一の可能性に立脚するものであるのみならず、ことさらその危険性を誇大に強調するものにほかならない。

けだし、申立人らの主張は、いかなる場合におけるいかなる状況下においても完全無欠であるもの以外の存在はすべてこれを許さないというに等しく、本件処分の取消しを求める理由として到底認められるものではない。

また、申立人らは、本件処分を違法とする理由として技術上の基準の不備についても主張する。

しかしながら、右主張についてみても、抽象的、漠然としたものであるのみならず、本件移送取扱所の設置による危険性といかなる関連を有するのかについても明らかでないものであつてみれば、同主張もまた本件処分の取消しを求める理由として認められるものではない。

したがつて、申立人らの主張はいずれも理由のないものというのほかはない。

三 本件移送取扱所の設置によつて環境が破壊されるとの主張について

申立人らは、送油管が設置されることにより本件移送取扱所の設置ルート周辺の地下水が変化し、送油管から、漏油により本件移送取扱所の設置ルート周辺の地下水ひいては河川、海が重油等で汚染され及び送油管により本件移送取扱所の設置ルート周辺の農用地の土中温度が上昇するとして、本件移送取扱所の設置によつて環境が破壊されると主張する。

しかしながら、申立人らはいずれも右主張をもつて本件処分の取消しを求める理由となし得ないものであること第二において既に述べたとおりである。

したがつて、申立人らの主張は理由のないものであること明らかであるが、以下、念のために反論する。

まず、送油管の設置による地下水の変化についてみるに、その設置工事自体が小規模で、かつ、短期間に行われるものであること、設置方法においても適切な処置が講じられるものであることから、申立人ら主張のごとく生活用水及び農業用水の利用に重大な支障が生じ、農用地を湿地化させるほどに本件移送取扱所の設置ルート周辺の地下水が変化することなどあり得ない。

次に、送油管からの漏油についてみれば、本件移送取扱所は、必要にして十分な強度及び構造を有する送油管を採用し、各種の保安設備等を設け、かつ、厳重な施工、管理の下に設置された上、厳格な完成検査を受け、更に、適切な保守、運用がなされるものであるから、申立人ら主張のごとく、送油管から大量の重油等が漏えいすること自体あり得ず、従つて、生活用水及び農業用水の利用に支障が生ずるほどに本件移送取扱所の設置ルート周辺の地下水が重油等によつて汚染されることもなく、まして、河川、海が汚染されることなど到底起こり得ようはずもない。

更に、送油管による土中温度の上昇についてみても、送油管は、送油時、送油停止時のいずれにおいても本管内の温度はほぼ最高摂氏六〇度であるところ、それ自体熱放散を抑制する構造を有しており、かつ、農用地から一・五メートル離れた地表からおおむね一・二メートルないし一・八メートルの深さの位置に設置されるものであるから、申立人ら主張のごとく、送油管が本件移送取扱所の設置ルート周辺の農用地の土中温度を上昇させること自体あり得ることではなく、従つて、同農用地の農作物の生育が阻害されることもまたあり得ない。

したがつて、申立人らの主張は、以上のことからしても、そのいずれについてみても理由のないものであること明らかである。

四 本件移送取扱所の設置の内容は技術上の基準に違反しているとの主張について

申立人らは、多岐にわたる事項について述べ、本件移送取扱所の設置の内容は技術上の基準に違反している旨主張する。

しかしながら、申立人らの右主張は独自の見地から技術上の基準を解釈してその違反をいうものであり、本件移送取扱所の位置、構造及び設備については技術専門員がいずれも技術上の基準を十分に満足すると認めていることからも明らかなごとく本件移送取扱所の設置の内容は技術上の基準に適合するものであるから、本件処分が技術上の基準に違反してなされていることなどあり得ようはずもなく、従つて、同人らの主張は理由がない。

第五本件執行停止の申立てが認容されれば、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。

一 電気事業の公益性について

電気が国民の日常生活に必要不可欠な大きな役割を果たし、そのほかあらゆる産業活動に欠くことのできない基礎的エネルギーともなつていることは顕著な事実である。

換言すると、もし電気の供給に支障を来すとすれば、日常生活に必要不可欠な照明・電化機器の使用が不能となり、ガス・水道の供給が停止するとともに、交通機関、医療施設、報道・通信機関の機能が混乱して社会不安を招来し、更に、鉄鋼、紙パルプ、アルミニウム、石炭等の基幹産業はもとよりあらゆる産業が活動を停止することになり、ひいては国民経済を破壊し、公共の福祉に計り知れない影響を及ぼすこととなる。

したがつて、電気事業を営む者は、豊富で良質(周波数と電圧が一定規格に維持されること。)な電気を安定的に供給することによつて、国民の生活の向上に寄与し、産業活動及び国民経済の発展を支えるという公共の利益に奉仕すべき重大な責務を負わされているのである。

このような電気事業の高度の公益性にかんがみ、電気事業者には、営利目的の一般私企業と著しく異なる法律上の制約が課されており、例えば、取引の相手方を選択する自由を持たず、供給区域における一般の需要に常に応じなければならない供給義務を課され(電気事業法一八条)、電気料金等の供給条件は相手方の資力・信用のいかんにかかわりなく主務官庁の認可を経た供給規程によるものとされ(同一九条ないし二一条)、しかも良質な電気を恒常的に供給しなければならない(同二六条)ものとされているのである。

二 伊達発電所の必要性について

北電は、北海道一円に電気を供給する一般電気事業を営む者である。

しかして、北電は、前述の社会的責務を全うするため、常に現在の電気供給体制の適切な維持管理に努めるとともに、将来の電力需要の動向を予測して電力需給バランスを安定的に保つために必要な電源開発計画を立て、長期的な見通しの下に発電所の建設及び送電、変電設備等の拡充、強化を図つている。

ところで、伊達市及び室蘭市を含む西胆振地区は、北電の電気供給区域の中でも電力大消費地であるが、電源(発電所)がほとんどないため専ら他地区からの供給に依存しており、従前から、同地区内にその需要を賄い得る電源を確保することが必要とされていた。

伊達発電所は、右の必要性に基づくとともに、以下に述べるとおり全道的な送電連系の下に適正な供給力を確保するため、電源開発計画の重要な一環として建設されるものである。

そもそも電気は、生産と消費が同時に行われ、しかも貯蔵できない特性を有しているものであるから、安定した電力を供給するためには、発電所の事故、異常渇水による水力発電所の出力低下、その他予測し得ない急激な需要増等電力需給上の異常事態の発生に備えて供給力の余裕、すなわち供給予備力を常に確保しておく必要があり、北海道の場合は、過去の実績に基づく統計数値等からして、最大需要電力の一三パーセントないし一五パーセント程度の割合の供給予備力が必要とされている(この最大需要電力に対する供給予備力の割合を供給予備率という。)。

しかして、北海道における昭和五三年度の電力需給事情についてみれば、最大需要電力二六五万キロワツト、供給力三〇五万三、〇〇〇キロワツト、供給予備力四〇万三、〇〇〇キロワツト、供給予備率一五・二パーセントとそれぞれ見込まれている(同各数値は一二月におけるものである。)。

しかしながら、右昭和五三年度における供給力には伊達発電所が含まれており(同発電所は、現在本件移送取扱所の設置工事の一部を残しすべて完成している。)、しかも同発電所は供給力全体の一〇分の一以上を占める主力発電所となるものであることから、仮に同発電所の操業が不可能になつた場合は、同年度の供給予備率は二・四パーセントに低下し、必要な供給予備率(一三パーセントないし一五パーセント)の五分の一ないし六分の一程度となり、かくては北海道における電力需給事情は予断を許さない状況に陥る。

北電は、従来大手工場等の間において、電力需給がひつ迫した場合に電気の使用を抑制する時間帯特約及び負荷調整特約、工場の休日を日曜日から平日に振り替える休日振替特約、発電所の事故等によつて極端に供給力が不足したときに一定の割合で電気の使用を抑制する緊急時負荷調整契約等の方策を講じて一時的な電力需給のひつ迫に対処してきたが、前述のごとく供給予備力が大幅に低下すると、予測できない発電所の事故による停止、大きな需要変動に対処し得なくなるのみならず、時々刻々変動する需要に対応する予備力すら確保できなくなり、電気の供給に重大な支障を来すこと明らかである。

なお、念のために付言すれば、新たに発電所を建設するためには立地調査等に要する期間を含めて七年ないし一〇年の歳月を必要とすることから、電源開発は、常に長期的な展望に立つて計画的に推進し、将来にわたつて電力の安定供給に支障が生じることのないよう配慮すべきところ、いま仮に伊達発電所の操業が不可能になつた場合において、直ちに同発電所に代わり得る電源を確保することは全く不可能である。

以上述べたとおり、伊達発電所の建設は、西胆振地区における電力需要を賄うとともに、全道的な送電連系の下に北海道全体の電力需要に対し安定的に供給するために重要な意味を有するものであり、その公益性は極めて大である。

三 本件移送取扱所の必要性について

伊達発電所は、重油又は原油を燃料として用いる火力発電所であり、燃料油は必要不可欠である。

しかして、一般に臨海部に位置する火力発電所の燃料油はタンカーにより海上輸送されるが、伊達発電所の場合は、同発電所地先海域を含む付近一帯が養殖漁場であり海上輸送に伴う漁業への支障が懸念されることから、北電は地元の要望をも踏まえて燃料油の輸送方法について種々検討した結果、現在の技術水準において安全にしてかつ環境の保全を図りうる輸送手段として本件移送取扱所を設置し、これにより燃料油を輸送することとしたものである。

本件移送取扱所は、伊達発電所と一体不可分のものであり、従つて、同発電所は本件移送取扱所の設置なしにはその機能を果たし得ないこと明らかである。

四 本件執行停止申立ての認容により公共の福祉に及ぼす影響について

伊達発電所の公益性、本件移送取扱所の設置の必要性については既述のとおりである。

したがつて、本件処分の効力の執行停止が認められるとすれば、これによつて、単に本件移送取扱所による伊達発電所の燃料油の輸送ができなくなるばかりではなく、同発電所はその機能を果たすことが不可能となり、かくては西胆振地区はもとより北海道全体における電力の安定的な供給に重大な支障が生ずること明らかである。

本件執行停止の申立ては、正に公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるものというべく、到底認容されるべきではない。

反論書

第一

本件申立は、申立人らが本案について原告適格を有しないから不適法であるとの相手方の主張について。

一、相手方は、消防法の目的は火災等による災害防止という公共の安全を図ることにあり、その結果、関係住民の利益が保護されることになるが、同住民の利益は、公益保護の結果として生ずる事実上の利益ないしいわゆる反射的利益にとどまるものと主張する。

しかし、同法一条は、国民の生命、身体及び財産を火災から保護すること、火災または地震等の災害による被害を軽減すること、もつて社会公共の安寧秩序を保持することを目的としている。社会公共の安寧秩序の保持には環境の保全も当然含まれる。

同法一条を素直に読めば、同法は国民各個人の生命、身体および財産を火災または地震から保護することを目的としていることは明白である。

相手方は、許可に際し関係住民の意見を聴取する規定がないこと、危険物の規制に関する政令に関係住民の個別的利益について特段の定めがないこと、許可権者の検査と罰則規定を通じて許可の実効を確保していることをもつて、同法の目的は、火災等による災害防止という公共の安全を図ることにあり、住民各個人の利益保護を目的とする規定でないというが、一方、消防法は、移送取扱所の設置の許可について、一一条三項および四項において関係都道府県知事または市町村長は許可権者に対し、それぞれ意見を申し出ることができる旨規定することにより地元住民の意見反映の機会を保障しているともいう。

同法に、具体的に物権所有者等に火災予防措置を命じ(同法三条)、建物建築等についても許可について消防長または消防署長の同意を要するものとし(同法七条)、一定の防火対象物については消防用設備等の設置義務を規定する(同法一七条)。これらの規定は附近住民各個人の生命、身体および財産を火災から保護することを目的としていることは明らかである。

そうとすれば同法において、危険物の取扱所の設置についてのみ、右の住民各個人の利益保護が除外されるべき理由はない。

二、仮に同法の目的が相手方の主張のとおりであるとしても、申立人らは本件申立書の第五、回復困難な被害において述べているとおり、本件許可処分によつて直接その生命、身体および財産に被害を受けるものである。

従つて、行政事件訴訟法九条の処分の取消しにつき法律上の利益を有する者であつて、単なる事実上の利益ないし反射的利益にとどまるものではない(最高裁第二小法廷、昭和三七・一・一九判決〔民集一六巻一号五七ページ〕、なお続・行政事件訴訟十年史一四二ページ参照)。

第二

相手方は消防法が個人的利益を保障すると解した場合でも、本件移送取扱所の送油管が破損すること自身あり得ないから被害も起らないので、申立人らの主張する被害の発生をもつて本案の訴えの利益を認める理由はないと主張する。

申立人らは、過去の具体例や科学的知見をもとに、本件パイプラインの危険性を主張しているのであつて、単なる仮想に基づくものではない。相手方が送油管が破損すること自身あり得ないと主張することこそ、仮想または観念的希望的観察にすぎない。

本件移送取扱所の設置により具体的に火災、爆発の危険性があり、申立人らの法律上の利益が侵害されるから本件申立に及んでいるものである。

したがつて、申立人らの本案について訴えの利益があることは当然であり、本件執行停止の申立につき不適法であるとする相手方の主張が理由のないことも明白である。

第三

相手方引用の判例は、行政事件訴訟法九条の解釈を誤つているうえ、本件と事案を異にし、先例として尊重するに値しない。

原告適格の問題については、建築確認処分につき、近隣居住者からの取消訴訟につき原告適格を認めた横浜地裁昭和四〇年八月一六日判決(行集一六巻八号一四五ページ)、東京高裁昭和四七年九月二七日判決(判例時報六八〇号一九ページ)および原子炉設置許可処分につき、周辺住民からの取消訴訟につき、原告適格を認めた松山地裁昭和五三年四月二五日判決(いわゆる伊方原発訴訟)が参考になる。

第四

相手方は、本件移送取扱所は、必要にして十分な強度および構造を有する送油管を採用し、各種の保安設備等を設け、かつ、厳重な施工、監理の下に設置された上、厳重な検査を受け、更に、適切な保守、運用がなされるものであるから、十分な安全性を有するものであり、したがつて、申立人らが主張するごとき送油管の破損に起因する損害など起り得ない、と主張する。。

右に対する申立人らの反論を以下に述べる。

一、相手方は、送油管の本管は、地震による外力に対してみても、伊達地方に過去最も大きな影響をもたらした明治四三年の有珠山地震と同程度の規模の地震に対しても十分耐え得る強度を有すると主張する。

右記に対する申立人の反論

(1) 伊達地方に巨大地震が発生する可能性

北海道の太平洋岸一帯は、太平洋海底下に震源をもつ大地震の常襲地域となつており、マグニチユード8内外の地震が反覆して起つている。昭和二七年の十勝沖、四三年の第二次十勝沖などの地震が記憶に新しい。

伊達地方はこの大地震常襲地域の西端に位置すると同時に、そのすぐ北西に有珠山を抱えている。前者からは深発性の大エネルギーの地震動の作用をうけ、同時に、後者からは比較的エネルギーは小さいが、浅発性で局地的大被害の発生しやすい地震動の作用をうける。このような二種の地震源にはさまれた伊達市街地ならびにその郊外において、これまで重大な震災をこうむつた記録が無いのは、たまたまの好運が続いてきたということと、災害要因を潜在させる都市型施設を欠いていたためであつて、今後も地震災害から免れ続けるためには、十分な人為的配慮が要請されているのである。

要するに、自然条件のみからみても、今後数十年、一〇〇年といつた期間に限定したとしても、明治四三年の地震を上廻る震度Vないしそれ以上の地震動が伊達地方を襲うことはないと断定することは、人為の推定限度をこえた暴論である。

北電は、伊達地方には今後も震度V以上の地震は発生しないと断定し、技術専門員もこれに基づいて審査した。これをうけて、相手方が送油管の本管が震度IVの地震に耐えられるから安全であるとするのは危険である。

(2) 消防法の技術基準と本件パイプラインが地震に耐えられる限度

消防法の技術基準(省令ならびに告示)には、いわゆる耐震設計なるものが記載されているが、それは「基盤面に入射した一五〇ガルの地震動によつて弾性的に振動する地盤中に生ずる弾性変位によつて損傷されないこと」を規定しているにすぎない。

本件パイプラインの消防法許可申請書においても、この規定によつて設計されている。それゆえ、本件パイプラインが耐えうる地震動の最低限度としては、前記「  」内に記した内容と考えるべきである。

ところで、現実の地震動の作用によつて地下埋設管がこうむる損害の原因は、地盤の弾性振動によるものではなく、地震動が終了後地盤中に残留する塑性変位によつて、埋設管がひきちぎられることである。事実、もし弾性振動が限度をこえたことによつて管が壊れるのであれば、地盤は広範囲に連続的に振動しているのであるから、面的な拡がりをもつて埋設管が破壊されるはずなのに、実際には、前記残留変位がたまたま発生した道筋にそつて線的に破壊が生じているのである。

このような地盤の残留変位は一般に二つの発生原因が考えられ、一つは、いわゆる活断層に沿つたものであり、他の一つは、軟弱地盤地帯において、弱点がしわよせされた個所に発生する。後者は、局所的要因によつて発生位置が規定されるために、ある地域内に発生が確実に推定されても、どこどこに発生し、どこどこには発生しない、ということをあらかじめ予測することは不可能である。

本件パイプラインルートは、いたるところで軟弱地盤地帯を通過しており、しかも、すでに事実をもつて明らかにしているように、工事の杜撰さによつて、埋設場所に沿つて地割れ、陥没がみられ、軟弱地盤中に、ことさら残留変位を誘発する弱点が形成されている。このことによつて、地震時に発生する残留変位(段差など)がパイプラインを通過する蓋然性を著しく高いものとしている。したがつて、本件パイプラインが消防法の技術基準を仮りに満たしているとしても、危険性は十分残つているものである(<1>館山道には深さ一・五メートルの亀裂が生じ、<2>黄金三〇号線にも長さ三〇メートルに亘つて亀裂が生じ、<3>清住地区でも、西一号線、庄司宅前に亀裂が生じ、安井宅塀と壁にひび割れが生じた)。〔甲六五号証、写真143、144、182参照〕

二、相手方は、パイプライン埋設時の埋めもどしは完全に行われるから、地下水の流れも変化せず、本件パイプラインは十分な安全性を有すると主張する。

右記に対する申立人の反論

(1) 本件パイプラインルート沿の地域は、地下水が豊富で、かつ、地下水位が地表近くまで達しているところが多い。したがつて埋設工事によつて様々な問題が発生するであろうことは、予め、繰り返し北電ならびに関係行政当局に申し入れてきたところである。その具体的内容については、たとえば、和光大学生越忠教授の意見書(甲二二号証)に詳しく述べられている。にもかかわらず、行政当局はこの警告に十分耳を貸さずに許認可をすすめ、そして北電は工事を強行してきた。工事の実績は、不幸にして申立人らの警告が的を射ていたことを実証しており、本件パイプラインの工事は、まさに「水とのたたかい」にあけくれている。埋設工事による地下水の変動は、地下水の枯かつと土地の湿地化という正反対の現象をセツトとして発生させている。事前調査が不十分であつたため、地下水問題の困難性を予見することなく行われる工事が、完成後のパイプラインの安定性を阻害し、災害発生の危険を著しく高めていることを以下に指摘する。

(2) 掘削溝は水びたしになつているか、随所に釜場をもうけて揚水している。釜場の多くは溶接のための会所堀りの個所にあるが、埋設ずみのパイプ周囲には砂袋が積みあげられ、パイプ下からは排水用の多孔管(ドレーン)が顔を出していることが多い。地下水の多い所は一断面に五本もドレーン(径七センチメートル)が入つており(黄金三〇号線寄り工事中の場合)、また場所によつては、砂袋の間から置換砂が釜場に流れ出している。このような場所では、パイプ周辺の砂は緩んでしまつており、場合によればすでに空洞が形成されている。

置換砂の締め固めをするために、ドレーンを挿入したものと思われるが、ドレーン設置にもかかわらず置換砂の上面にまで水が浮き出し、水溜りをなしているところもある。

(3) 以上の状況のもとでは、そもそも設計段階で予定した通りに置換砂を十分締めかためることが不可能であるばかりでなく、置換砂を事後的にさらに緩ませ、場合によれば、空洞を形成し、パイプは極めて不安定に置換砂に「保持」された状態で埋設が「完了」しているわけである。

(4) 矢板を立てこみ掘削を開始すると、矢板背面には、ほとんど例外なく、大小の陥没が発生しており、ところによつては、幅数十センチ、深さも同程度に達している。これによつてパイプの地山(原地盤)は相当程度緩んだ状態となつており、道路端あるいは道路中央部に長く続く亀裂の発生によつても、この地山の緩みは証明されている。道路亀裂の幅は一センチ程度のところが多いが、二~三センチに達しているところもあり、その深さは確認できたところだけでも、一・五メートルは棒を挿入することができる程度である(館山道)。しかも道路亀裂は埋めもどし終了後もその進行は止まらない。また埋めもどし後にパイプ上の土塊が沈下し、周囲との間に段差を生じており、置換砂および埋めもどし土が不安定な状態にあることを示している。

(5) 埋めもどし後、前記ドレーンの機能が停止すると、置換砂あるいは埋めもどし土は、完全に水侵状態となり、直接地下水流の作用にさらされることになる。パイプライン埋設後の地域をマクロにみれば、置換砂の作用は、地下一~二メートルの深さに断面一平方メートルもの巨大な“盲暗渠”が設置されたことに相当し、地下水位が高く、地下水豊富で微妙なバランスを保つてきた地下水流にとつては、大幅な条件変化となる。この条件変化は、一部を湿地化させ、あるいは一部を乾地化させることは疑うことができない。

また、パイプ周囲の地盤をミクロにみれば、“盲暗渠”と化した置換砂は、地下水流の浸透作用、掃流作用をうけ続けるので、緩んだ砂粒構造の一部はそれによつて動かされ、侵食の発生、みずみちの形成などを経て、局部的に空洞が発生し、それが次第に成長していく可能性が強い。何らかの刺激によつて、この空洞がくずれれば、当然にもパイプには異常な力が作用し、折損することは否定しえない。極めて単純な条件を仮定して試算してみると、長さ数メートルないし一〇メートルの空洞が崩壊した場合、パイプに発生する応力はその破断強度(API5LX―X52の場合四・六四〇kg/cm)を確実にこえることになる。

(6) パイプライン埋設前後の地下水流の変化について、技術専門員会議の技術検討報告書(担当・北海道大学北郷教授)は「配管敷設前後の土の状態にはさしたる変化はなく、たとえば、敷設前の配管付近の湿潤密度が一・六四~一・八二g/cm3であるのが敷設後は砂部分で一・七五~一・八〇g/cm3、埋めもどし土部分で一・六〇g/cm3程度にかわるであろうことが予想されるので、配管付近の土の工学的性質が敷設前にくらべて甚だしく変化することはない。したがつて、工事の規模と考え合わせると配管の埋設によつて地下水流が従来と甚だしく変ることはないとする申請者の判断は妥当と考えられる」と述べている。

これは土質工学上の初歩的で明白な誤りである。すなわち、地下水流の状況を左右する土の性質としては、まず第一に透水係数であつて、湿潤密度ではない。また、さらに地下水流の作用によつて土砂が動かされ易いかどうかは、これも土の固体骨組(土粒子)の粒度分布やかみ合せ等の構造(土の強度)によつて決るのであつて、湿潤密度によつてではない。ただ湿潤密度が関与するとすれば、それによつて透水係数や強度がある幅の中で、間接的に影響をうけるためであつて、土の種類の変化の方がはるかに大きな影響をもつ。

本件パイプラインの実際をみるに、置換砂透水係数は、在来地盤に比し一〇〇倍程度の大きさをもつ。それゆえ(5)において述べたように“盲暗渠”のような機能を果すのである。また水流に対する安定度についても、粘性を有する在来地盤に比し、置換砂ははるかに浸透作用をうけやすい土質である。そして、すでに詳しく示したように現実の締めかため施工の状態は、設計時に想定したものとは、ほどとおいほど緩い密度になつている。

(7) 地下水流調査に関しては、国会における委員会質疑ならびに質問主意書(五一年五月二二日および五一年一〇月一二日、岡田春夫議員提出、五一年一一月一日、島本虎三議員提出)の中でもしばしばとりあげられた。工事の杜撰さについては五三年四月二五日の衆議院公害対策ならびに環境保全特別委員会で、水田稔議員によつて多くの現場写真を提示して追求され、服部公益部長は「道路の亀裂あるいは地下水でかなり水浸しになつているという状態については、これは問題がないとは言えないわけでございまして」と答弁している。

また地下水流の変動を湿潤密度によつて検討した誤りについては、道議会で追求され、寺田総務部長(当時)が答弁に窮した。〔甲六六号証参照〕

(8) 以上要するに、地下水問題の重大性に関して、申立人を含む沿線住民から、度重なる警告を受けながら、それを無視して十分な調査をせず、技術上の初歩的な誤りに基づいた判断による設計をそのまま認め、相手方は北電に本件パイプラインの許可を与えた。しかし、北電は、申立人らが予想した通りの工事の難行に苦しみながら、杜撰な施工によつて事態を乗り切ろうとしている。

それによつて極めて不安定なパイプラインが「完成」しようとしており、このままではたとえば地下空洞の形成とその崩壊によるパイプラインの折損事故といつた大災害の発生が高い蓋然性をもつて推定されるのである。

三 相手方は「本管の接合に当たつては厳重な溶接施工要領に基づき、有資格者が被覆金属アーク溶接により行い、また、溶接部分については、すべて放射線透過試験等により検査し、溶接が確実に行われていることを現認することとしている」と主張する。

右記に対する申立人の反論

(1) 溶接施工要領には、溶接時の気温、温度などの気象条件、湧水や周辺の土の状態などの土質条件の変化にどう対処したらよいかの明確な定めがなく、本管の溶接を何層に分けて溶接するか、溶接で生じた欠陥の除去・手直しの方法などが決められていない。したがつて溶接は溶接者個々人の判断にまかされ、河川横断部などでは、掘削底が五メートル以上の狭く、暗く、湧水の多いところで、身をこごめ、窮屈そうに姿勢で溶接が行われている。また他の掘削底で行われている溶接も常に地下水が流れ込んでいる状態で行われている。その結果、パイプライン全体を通してみると、いかに有資格者が行つたとしても、溶接個所は著しく不均一になつている。さらに極めて温度の高い環境下の溶接となつているので溶接棒の管理の悪さ(溶接棒を路上に放り出し、何日もそのまま放置しておく)も加わつて溶接部の材質を劣悪化させている。

また両側からのびてきたパイプがピタツと合わず、機器を用いて無理に合わせて溶接している部分などは、その個所に溶接後も力がたまり不安定な状態となつている。

(2) 溶接終了時に透過試験を行い、その後欠陥個所や手直し個所があれば、それらの除去・手直しを行い、さらにもう一度透過試験を行うのが厳正な検査といわれるものである。しかし実際には、検査前に溶接部にグラインダーをかけ、溶接欠陥を除去し、その後一度の検査だけを行つているのは厳正さを欠き、欠陥が見逃される恐れがある。

(3) 溶接は、本管どうしの接合の他に、本管にセクト管を溶接しているが、この溶接に関しては施工要領には何ら記載されておらず、放射線透過試験等は全く行われていない。とくに、このセクト管の溶接は、本管の材質を著しく弱めるばかりでなく、本管にかかる力のむらを生ぜしめ、本管の強さを阻害する。〔甲六五号証、写真170~178参照〕

四、相手方は「送油管の本管として使用する鋼管は、世界的に実績のあるAPI規格5LXの強じんなもので、種々の外力に対し、十分耐えうる強度を有する」と主張する。

左記に対する申立人の反論

(1) すでに二、で述べたとおり、パイプの周囲の置換砂の密度が小さくなり、空洞さえ生じている恐れが十分ある。また鋼矢板の引き抜きの際生じた空隙は、そのまま放置し、自然に塞がるのを待つているが、実際の工事を見ていると、そのすき間には水を含んだ置換砂が地表面まで溢れ出ている。これでますます置換砂が減少し、空洞も増加する。この状態で地震が発生したり、重車輛がパイプの上を走つたりするとパイプ下の空洞が崩壊、陥没し、パイプに左右・上からかかる土圧のためにパイプは下方に押えつけられる。

パイプ下の没陥の幅によつて、パイプを押し下げる力も変るが、もし、掘削溝の幅一・二メートルにわたつて陥没が生ずると、パイプにはパイプ直上の土圧ばかりでなく、左右の土圧も同時に加わる。

パイプ下に幅一・二メートル、深さ六センチ以上、長さ七・一メートル程度の陥没が生じパイプの両端が堅い地盤等で支えられたとすれば、パイプの中央部は土圧のために七・四センチ沈下する。しかし、パイプが壊れないですむ沈下量は、この場合五・八センチまでであるから、このときパイプ中央部は土圧のみで破壊される。

なお、陥没の長さが七・一メートルより短かければ、パイプにかかる土圧は小さいのでパイプは破壊されない。また陥没の長さが七・一メートルより長くなると、パイプ中央部の沈下量はもつと大きな値まで許されるから、陥没の深さがもつと大きくならなければパイプは破壊されない。

次ページにその計算を示すが、数値は、北電が相手方に提出した「移送取扱所設置許可申請書」に用いられたものを使用している。

図<省略>

土圧はパイプに対して3方向から加わるからKp=3とする。

北電の申請書に掲げられている数値

API. 5LX-X52

σt=4,640kg/cm2(引張強さ)

σy=3,660kg/cm2(降伏点)

D=42.41cm(FRV外装管の外径)

z=566cm3(本管の断面係数)

I=9,018cm4(本管の断面2次モーメント)

E=2.1×106kg/cm2(本管の変形係数)

γ=0.0018kg/cm3(土の単位体積重量)

1) パイプにかかる応力σ

σ=wl2/8z

2) パイプのたわみy0

y0=5wl4/384EI

3) パイプにかかる土圧w

w=kpγDH(Hはパイプ埋設深さ:180cm)

計算

1) w=kpγDH=3×0.0018×42.41×180≒41.2kg/cm

2) σ=σtとなるlの値

l2=8σz/w=8×4.640×566/41.2≒0.510×106cm2=51.0m2

l=√51.0m≒7.1m

3) σ=σtのときの最大沈下量y0の値

y0=5wl4/384EI={5×41.2×(0.510)2×1012}/{384×2.1×106×9.018×103}≒7.4cm

4) このとき降伏点をこえるのは7.4×3.66/4.64≒5.8cm

図<省略>

パイプは降伏点(・印)まで沈下しないので壊れない。

パイプは降伏点より下まで沈下し、壊れる。

五、相手方は「異常時には保安設備が働いてパイプラインの安全性を保障する」と主張する。

右記に対する申立人の反論

(1) 本案申立書でも、安全装置等が緊急時に働かない可能性を述べてきたが、さらに加えれば、地震時の停電には予備の電気を用いると北電は言つているが、巨大地震が発生したときは、その予備すら使用不能になることは、過去の例からも数多い。こんな時、パイプが破損していれば、ポンプは止つても緊急しや断弁はしまらず、パイプ中の油のほとんどが外部に漏れて被害を拡大する。

北電では、電気がなければ手動で緊急しや断を閉じるとしているが、過去、二度にわたつて手動によるダム放水事故を引き起し、人を死なせている実績から、これがきちんと行われるとは信んじがたい。

(2) 通信ケーブルは、本管より強度はさらに弱く、これが切断される可能性はより大きいものと考えられる。パイプラインに関する情報は、この通信ケーブルに集中しているため、これが切断されるたびにパイプラインの稼働が急激に停止されることは、定常的運転が生命であるこの種の装置にとつて被労が早まり、強度が下り、破損の可能性も高まる。さらに(1)で述べたように緊急時の事故はここにもついてまわる。

六、相手方は「送油管の存在により、農作物に被害が及ぶほどに周辺農地の土中温度が影響を受けることなどあり得ない」と主張する。

右記に対する申立人の反論

(1) 相手方は、「実験」結果によつても農地周辺の土中温度に影響がないとしているが、北電が行つたこの「実験」ほどいいかげんなものはない。

<1> 伊達市萩原一一八番地で行われた第一回の実験は、パイプに六〇度Cの水を封入して土中温度の分布を調べたものである。これでは水の温度はどんどん下つていくと住民に指摘され、北電は第二回目の実験をすることになつた。

<2> 同地で行われた第二回目の実験は、パイプに六〇度Cの水を巡環させる方法をとり、実験データを集めた。しかし、実際のパイプラインにはセクト管がついており、送油停止時にはこれの働きでパイプ中の重油を六〇度Cに保つようにできている。だからセクト管を用いないこの実験もまた実際のパイプラインにおける土中温度分布を示すものではない。

送油停止時には、パイプ中の重油を六〇度Cに保つために、セクト管の温度は一〇〇度C以上になる。したがつて、このセクト管の温度の影響が土中温度に与えるそれは非常に大である。<2>の実験後、パイプ直上の土の表面は極度に乾燥していたことから、地表面にまで影響がないとする相手方の主張は誤りであるし、セクト管まで使用すればさらに影響が拡がることも明白である。

このいいかげんな「実験」に基づいた相手方の主張は信頼性を欠き、その主張を認めることはできない。

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